俺たちトランスフォーマーの血は少し変わっている。どこがっていうと、おもにその色が。人間のあの毒々しい赤色もなかなかのもんだが、流石に薄暗闇で中途半端に輝くのはいまだに気持ち悪いとちょっと思う。どっかのマッドサイエンティストの研究室はまさにそのタイプなんで俺はあそこにいきたくない。
だから眼前に飛び込んできたその光景に思わず一瞬動きをとめてしまったって、仕方なかったと思う。むしろ言い張れる。
一体誰が即座に反応できるんだろうか(え、ロジカルサイエンティスト?知らないわ)。まさに俺様があるいているネメシスの通路の死角になる場所に、情報参謀サマがあの忌々しい薄水色にまみれて突っ立っている光景だなんて!

「…あー、その、サウンドウェーブさん?」

動かない。少しだけ死んだかもという考えが過った。が、たっぷり数秒かけてから頭がこちらを向いたのでほっとする。ただでさえ寡黙に生命が宿っているようなヤツなのに、こういうはらはらさせるときに限ってこんな反応をよこすのだから質が悪い。ん?と聞いてみたけど訳もなく首を傾ける。思わずこぼれた溜め息に反応はされなかった。ンだよ。
そういえばなんでこいつはこんなにオイルに濡れてんだ――… とまで考えて、数時間前にメガトロンの野郎にエネルゴン鉱山の探索命令が出されていたのを思い出す。とはいえ、あのサウンドウェーブだ。どうしてこんな姿になったかなど想像出来ない。それに、ただエネルゴンがぶっかかっているんじゃない。嗅覚を突くのは紛れもない循環オイルの匂いなのだ。

「なんだその格好」
『…』

よくよく見ればこっちからは見えないところの右腕、そのほっそい指先に繋がってるはずのそれが肩っぽいところから歪な裂け目から配線を覗かせていて、口元がひきつった。「おっ、ま、重傷…ッ」 当の本人は無言でこっちを見るだけだ。

「…んで突っ立ってやがるこのスカポンタンッ!!」

がっ、と左肩を掴んだ。サウンドウェーブの画面にゆらと波紋が揺れたが知ったこっちゃない。いてえのは目の前でこんな重傷を見せ付けられたこっちもだ。相変わらず何考えてんのか読み取れないが、痛くねえってことはねえと思う。それに、ここまで見たからにはほっとく気にはなれなかった。

「おら行くぞ!」

ぴくり。無事な方の指先が少し動く。

『行く』

体を動かさないのは問いかけてるからか。わかりづれぇやつ、と僅かに悪態つきながら引く力を増やしてやった。「リペアだよボケ」『リペア…』なんとなくわからなくもない。え、お前にリペアされんのといったところだろう。
黙ってばかりだがだからといっておとなしいかわいこちゃんということはないし、むしろこいつは悪いほうだし。

「そっちの背中の方を単眼科学者もいねえのに治せると思ってんのか?意地張んな、嫌なら殴ってでも治す、てめえがこんなとこで突っ立ってっからするんだよ、文句言うなよ!?」
『必死』
「うっせー!!」

ホントにわるい。チクショウ。




「んで?どうしてああなったんだよ」
揚げ足とらずにやっとこさリペアルームにまで辿り着けたところで、サウンドウェーブの腕の簡易的な処置をやりながら、俺はもう一度聞いた。
ぴこんと間抜けな音と共に“(-.-)”ヘンテコな絵文字らしきものが表示されて、これはなにを表しているのか一瞬悩んだ…後ろめたい?こいつが?ないな。真面目なようでふざけているときも多々あるから適当に解釈しようとしたと同時、あまりにもあんまりな台詞が帰ってきた。

『転んだ』

(…聞き間違いだ、うん)

『転んだ』
「お前ほんと性格ひでぇな!」

何故だかどやッとされた気がしたからピンセットを突っ込んでいる傷口、ちょろっとはみでている回路を弾いた。液晶越しに非難の視線を感じるが無視することにする。
「つーかなんで転んだよ」
情報参謀サマとあろうてめえがよ、と続ける。
断裂したケーブルの歪んだ断面をなだらかにして、くるりと結んでオイルの流出を止めてやる。疑問に答えてくるかはもはや謎だったが、今回はわりとよくしゃべった―――…俺様の思考がぶっとぶほどの衝撃を残して。

『エネルゴン鉱山』『発見』
「お、おう」
『報告』『しようとして』『腕』『天井にゴン!』
「え」
『頭もゴン!』
「いやいやいやいやいや」
『少し』『落盤』
「おいこら待てって」
『脱出!!』

ジャジャーン!!なんていう間抜けな音が顔もとい液晶から響く。アレだろうか、地球でやっていたアニメとかやらの効果音か。

『で』『転んだ。』

以上だと言わんばかりにサウンドウェーブが頷く。…色々言いたいことがありすぎて声が出ない。確かにこいつはやばい、と溜め息をつく気も起きない。
今日俺様はわりと普通に仕事してたはずなのに。なんだこの仕打ち。自分で言うのもなんだがメガトロンの野郎に下剋上してねぇし、2日後提出の報告データもしっかりやったし、ビーコンの戦闘訓練までやった。それで休もうと思った矢先の廊下の血塗れ情報参謀サマだ。泣ける。次いでせっかくリペアしたってのにどうでもいいユーモアを交えて語られた怪我の経緯は下らなさと衝撃でもはやテロだった。

「あー、その、サウンドウェーブ」

本日二度目となる台詞を、言いたくはないけれども言わずにはおれないので、腹の底から押し出す。本当に、本当に不本意だが。

「それもう転んだの域じゃねえから。」

もう他について突っ込むのはやめた。
そしてこの瞬間、本日あまりにも勤勉なこの俺様の貴重な睡眠時間の終了を告げる無慈悲なアラームが俺様を現実に突き落としたのだった。


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