「すまん」
「…気にしてない」
「メガトロン様の用事…というのは言い訳がましいが、ほんとうに」
「もういい」
「サウンドウェーブ、」
「いいと言っている」
突っ撥ねるように言い放つサウンドウェーブの表情に幾分かの苛立ちが含まれているのは見間違いではないだろう。レーザーウェーブはそう見当をつける。
だからこそ冒頭のような探り合い紛いの問答が続く訳だが、元よりまどろっこしいのを嫌うサウンドウェーブの語気が問答が長くなるごとに強くなっていくのは致し方ないもので。更に言えばそれらが苛立ちの原因である恋人のレーザーウェーブにより増幅させられているのもわからないでもないものだ。

だからといって我が家に来てまでこんな修羅場を起こさなくてもよかったんじゃねえか。

目覚め第一に白い息混じりに飛び込んできたレーザーウェーブに、昨日から居座っているサウンドウェーブが普段ならベタベタに甘ったるい雰囲気になるはずのところを吹き飛ばすような絶体零度の「帰れ」の3文字をたたき付けるまでの一部始終を見せつけられた家主スタースクリームは、脇で寝転がったままの兄弟たちを恨めしげに睨みながら嘆息した。
どうしてこうなった?
…昨日はクリスマスで。彼女という女もいなかったからクリスマスパーティという名の飲み会で兄弟たちと飲み明かして。会社の同僚のサウンドウェーブがレーザーウェーブなしで転がり込んで来たあたりから嫌な予感はひしひしと感じたはず…なんだけどそんな奴を引っ張り込みながら「てっきり別れたのかと思った」と冗談にもならねぇコトをからからと笑ってほざくサンダークラッカー(とにかく顔が赤かった)を止める気も起きなくて、スカイワープも俺もクリスマスという年一のイベントに出来上がっていたので、パーティはそのまま進行して今日という日になって。
それで、コレ。
レーザーウェーブは罪悪感を抱きつつもサウンドウェーブの反応に精神的に参っていて、サウンドウェーブは意地はって拗ねているに近い(本人に言ったら嫌がらせされそうだ)。
見る限りどっちもどっちだが、余計なことを言ってとばっちりを受けるのだけは避けたい、というのがスタースクリームの本音である。取り敢えず家から出て行け出て行ってくださいおねがいします。
「痴話喧嘩くらい」
「頼むサウンドウェーブ聞いてくれ」
「聞いてる」
「余所で」
「お前それは聞き流してるっていうんだ」
「や」
「気にしてないと言ってるだろ」
「嘘吐け」
「…」
たった一つのささやかな願いすら今の2人には通用しないと理解するやいなやスカイワープとサンダークラッカーを引っ掴んでスタースクリームは足早にリビングを抜けた。お早めに、なんて皮肉すら出なかった。







家主が逃走したリビングのど真ん中で2人の男が向き合っている。
1人は眼帯1人はバイザーで眼を隠しているからか、怪しさも危険さもその場の雰囲気の重苦しさによく混じりあっている。要は険悪なのだ。
「…」
「サウンドウェーブ」
触れる術さえ考え付かぬままレーザーウェーブは困ったように恋人を呼んだが、つんと横を向いた彼は応じない。
普段はここまで怒らないのに、とか、いやだがしかし悪いのは私のほうだ、とか少しでも解決策に繋がりうる理由を手探りしているのだが、哀しいかな「理想」と上司にうたわれるレーザーウェーブですらそう簡単には掴めるものじゃない。むしろ分からぬばかりなので不安になるばかりだ。
まだこの年若く気難しい恋人と別れる気など毛頭ないから、尚更焦る。
ああああ、と内心がぐちゃぐちゃになっているのを薄々感じ取ったのか、ちらと横目でレーザーウェーブを見やったサウンドウェーブは一瞬上に視線をやって、大きなため息を吐いた。
ばっ。
落としていた視線を顔ごと上げたレーザーウェーブが縋るように彼を見つめる。
「…取り敢えず」
怒っていなどいない、と呆れたようにサウンドウェーブは続けた。

「……………本当か?」
「本当だ」
「…」
「俺だって別れる気などない」
「! そう、か」
距離だけはしっかり保ったまま、しかし口調も目付きも和らいだもので告げるサウンドウェーブ。
とはいえ腹立たしいことに変わりはないようで、レーザーウェーブのネクタイを引き下げると「だが、」顔を寄せて、

「社長を優先をするのは構わないが約束を守らないのが気に入らん」
至極嫌そうに言い放った。

混乱の極みに入りかけていたレーザーウェーブもそれでようやく合点がいったようで、ああ、とネクタイを引かれつつも器用に頷いた――… 数日前に25日に2人で食事をしようとサウンドウェーブに持ち掛けたのだ。
「嫌われたのかと」
「そんなことはない!」
「じゃあ」
不安が芽を出して猜疑心が生まれてサウンドウェーブのネクタイを握る手が白くなる。無意識だろうか紅い瞳が揺れ、それに気付いたレーザーウェーブが肩に手を掛けた。屈んで視線を合わすと、細い息が一瞬音を無くす。
「すまん、怒らないで聞いてくれ」
「…分かった。」

すう、とレーザーウェーブが息を吐く。


「電池が切れたんだ」

「はっ?」



…………ふざけているのか。
いやほんとうに。
そうじゃなくて…雰囲気がだな。

――…ここまで一貫、彼は至って真顔である。
毒気を抜かされたサウンドウェーブは、真面目面で弁明を続けるレーザーウェーブを眺めるしかない。
「電池、というと」
確か数日前に携帯の寿命がなんたらとか…とまで言いかけて、サウンドウェーブは盛大に顔をしかめた。覗き込んでいたレーザーウェーブの肩が揺れる。それなりに衝撃的な表情だったらしい。サウンドウェーブとしては衝撃的なのはこっちだと言いたいところなのだが、如何せん相手は堅物のレーザーウェーブである。これ以上何か言ったらややこしいことこの上ないので口を噤んだ。
だが、これで浮かんでいた疑問が解決した。

「――で、クリスマス当日になって電源が切れてこちらに連絡出来ぬまま接待か」
「ああ」
「そのまま接待先に行っても知り合いもいない暇もないから連絡手段がなかった、と。」
「そうだ。ちなみに今の全部当たっていたぞ」
「…酔ってこの家に転がり込んだのは信じたくないが」
「自棄酒だったんだろう?」
「自惚れるな。飲み過ぎただけだ」
「素直になってもいいだろうに…あ、そうだ」
互いにすっかり調子を戻していつもどおりの会話を交わす。腕を組直してため息を吐くサウンドウェーブに、レーザーウェーブがにこやかに「私がいなくて寂しいとスタースクリームに打ち明けたそうじゃないか」と告げる。
ぴしりと硬直した恋人に、つい先程まで社長の右腕らしからぬうろたえようを晒していたレーザーウェーブは「どうやら私は思ったより愛されているようだ」と喉を鳴らした。
瞬時に赤く染まった顔を隠すように俯くサウンドウェーブの細い身体を引き寄せると、まるで幼子にするようにひょいと抱えあげて下から覗き込む。

「っば、か」
隠そうにも隠せず、元より身長の高いレーザーウェーブに抱えられて高い足場に逃げることも出来ず、高さの割にがっしりとしている背中をサウンドウェーブが叩くところを、レーザーウェーブが子供をあやすように肩を揺すると慌ててしがみつくサウンドウェーブの姿があり、追い討ちのように薄い胸板に顔を寄せて見上げると真っ赤になりながら唇を噛んでいる表情がよく見えて苦笑する。
「可愛いな」
「くそ…っ」
「いたっ」
そっと首を上げて霞めるようにキスをしたら頭突きされた。




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大晦日三十分前のクリスマスでした


(配布元/デコヤ)


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