にねのスユさんには「たったひとつ欲しいものがあるの」で始まり、「つまり私は恋をしている」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664



たったひとつだけ、欲しいものがある。



「…………うーん、ウチもあんまり詳しくないからこれ!て言えるわけじゃないんやけど」

それは恋やね、とやけに真剣な顔で告げたアナスタシアにユリウスは思わず目を瞬かせた。

「恋、ですか」
「ユリウスの話だけ聞いてるとそれに近いんやない?な、リカード」
「せやなぁ。随分とお熱い話聞かせてもろうたわ」

けらけらと笑いながらアナスタシアの言葉にリカードが追従する。とある人間に抱く感情をそうである、と仮定されて、しかしこれまで意識をしたことがなかった「恋」というものにユリウスは眉根を寄せた。

「納得できへんの?」
「……そう、ですね。恥ずかしながら私にはあまりそうした経験がなく、」
「あーユリウス、お前今年でなんぼになるんや」
「22だが……」
「22てお前……相当奥手やな」

驚きや、と少々大げさに天を仰いだリカードを軽く睨む。事実ではあるがこればかりはどうしようもない。気軽に恋が出来るような人間であったなら、確かにそろそろそうしたことも考えていい年頃であることは自覚していた。

「ま、そういうんをつつくのはさておいて………ユリウス、恋い慕うて言葉、知っとる?」
「意味だけでしたら」
「ほんなら言うて見て?多分、そんな感じやね」

アナスタシアのその問に、脳内に埋もれた知識を掘り起こす。普段使わない言葉であるだけに少々時間がかかったが、確かこうした意味でよかったはずだ。

「……心を奪われるほどに、夢中である、でしたか」
「せやね。それと、さっき話してくれた人に思ってる気持ちって一緒やない?少なくともウチはそう思うけど」

妬けるほどに情熱的な言葉やったよ、とアナスタシアが微笑んだ。可愛らしいものをみるような目線がどうにも恥ずかしい。微かに笑いを含んだ瞳から逃げるようにユリウスは目の前に置かれた茶器を手に取り、中の紅茶を口に含んだ。芳しい茶葉の香りがふわりと鼻の奥に広がって、熱い液体が喉を滑り落ちて行く。

「恋、でしょうか。そうした感情であると定義してよいのか、正直私にはよくわからないのです」
「そんな難しいことは言うてへんよ……真面目くんやねぇ。人間でも、それ以外でも、相手に抱く感情が良いもんだったらそれは「恋」に近いってだけやん」

なんだか難しい話になってしまったなぁ、と苦笑してアナスタシアがふと窓の外を見る。

「しかし、ほんま妬けるわぁ。ウチの騎士様の心をあっさり奪い取ってしまったナツキくんには」
「…………スバルのことであると、話した記憶は……」
「ユリウス、それ言うたら白状してるようなもんやで」
「む、……」

諭されるようにリカードに言われて、二の句を告げなくなる。黙りこんだユリウスに向かって、アナスタシアが宥めるように声をかけた。

「言い方が悪かったかもしれんね。「恋」なんて言ったら普通その先に進むのかとか考えてしまうもんなぁ。そうじゃなくてもっと簡単なことだとウチは思う」
「簡単、とは?」
「好き、でええやん。別の言葉で例えるなら、それでお終い」
「……好き」

思いを単純に表すその単語を喉奥で反芻する。簡素であるからこそ理解しやすいその言葉は、「恋」と例えられるよりもすんなりと胸の中に落ちてきた。

「……そう、ですね。確かに私はスバルを好いている」
「せやろなぁ。盛大な惚気聞かされてこっちの顔が真っ赤になりそうやった……なぁリカード、ウチのほっぺ、リンガみたいになってへん?」
「残念ながらお嬢、いつも通りや。なーんも変わらん」
「そらよかった」

アナスタシアとリカードが交わす会話を耳にしつつも、深い思考の中に沈み込む。心を奪われるほどに夢中である、というのは確かにその通りだった。白鯨だけではなく大罪司教の一角をも地に堕とし、更に商人たちの噂話ではあの「大兎」をも消滅させたと聞く。

予想を遥かに超える彼だからこそ、ユリウスが諦めたものを血に塗れながらも踏み越えて行く彼だからこそ、その幼くも大きな背中を追ってしまうのはーーー……。




「恋……」

隣に並び立ちたい。彼の背中を追いたい。共に戦い、背を預け合いたい。彼が織りなす伝説をこの目で見たい。ユリウスはその資格をナツキ・スバルから貰いたい。

自室で一人、幼い頃に何度も読み返したお陰でぼろぼろになってしまった本の表紙をユリウスはそっと撫でた。子供が好むような英雄譚は今でも尚、ユリウスの心を弾ませる魅力に溢れている。

「ふ、」

この本に書かれた話は全て夢物語だった。幼い頃のユリウスにとってはそうだった。だが、少なくとも今は違う。ユリウスは確かにそれをこの目で見たのだ。想像上のものではない、英雄への道を歩む等身大の人間そのものを。

「そう、なのかもしれないな」

ーーー恋には、様々な定義がある。誰かを愛すこと、大切に思うこと、共に同じ時を見たいと考えること。心を奪われてしまうほどに、どうしようもなく惹かれること。

ならばきっとユリウス・ユークリウスは、紛れもなくナツキ・スバルに「恋」をしているのだ。
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