「………ない……ない?!ない、どこにもないな……え?まじ?」

朝起きたら股関に息子がなかった。何を言っているのかわからないと思うがスバルにもよくわからない。ただ、現在スバルの男性器はどこかに行ってしまって代わりに女性器が付いていることだけは理解できた。寝ぼけ眼でトイレに行って、あれぇ?ねえぞぉ?と酔っぱらいみたいな行動をしてしまい、しばらく股関を探ってみたが本当になかったので本気で目が覚めた。

「べ、ベア子ッ!ベアトリス!」

一緒に寝ていたスバルの可愛い契約精霊にもなにか変化が起こっていたらどうしよう。真っ先に思い立ったのはそのことで、慌ててトイレから寝室に移動する。すやすやと可愛らしい寝息を立てていたベアトリスの肩を揺さぶれば、まだ眠たげな瞳がぼんやりとスバルを認めた。

「ふぁ、……なにかひら。まだ起きるには早い時間……」
「いやっ!それどころじゃねぇんだ!ないんだよ!」
「………何が?」
「俺の……俺の…息子が……」

もしかして家出してベア子に付いてしまったとか。そんなありえない妄想をしてこれまた血の気が引く。

「べ、ベア子は女の子だよね?股関にちんちんついてないよね……?」
「付いてるわけがないかしら。ベティーはいつも通り、何も変わらないのよ」
「よ、よかった……」

ロリがショタになってもそれはそれで可愛いだろうが、なんとなくこう、接するときの心構えが違う。ほっと息をついて、スバルはベアトリスの肩を掴み、真剣な顔で見つめた。

「ベア子……これから話すことは嘘じゃない。本当のことなんだ。真剣に聞いてくれ」
「……わかったかしら」
「お…俺……俺っ…」

オンナノコになっちゃった……。

その言葉に訝しげな顔をして、ベアトリスがスバルの手に触れる。マナを探って、異変を感知しているらしいその表情がどんどん驚きに変化していくのを見てスバルはなんだか泣きそうになった。

「みぎゃーーーー!!!!」

自体を完全に把握したベアトリスの叫びで、穏やかな朝の時間が始まるはずだったロズワール邸が急激に騒がしくなる。なんなのよ!どういうことなのかしら?!とあわあわしているベアトリスはこんな時でも可愛いなぁと軽く現実逃避をしながら、スバルは窓の外を眺めた。

今日も空が綺麗だった。




「スバルが……女の子になっちゃったの?」

こてり、とエミリアが不思議そうに小首を傾げる。その隣ではまだ眠そうなペトラがあふ、と欠伸を噛み殺しているのが見えた。早朝に叩き起こしてしまったことを申し訳なく思いつつ、スバルは罪人のようにしゅんと椅子の上で縮こまる。

「ウン……」
「間違いないかしら。完全に女の体になっているのよ。確かに見た目では何も変化がないように見えるけれど……」
「ごめんな変化がなくて。ほんとは俺もボンキュッボンになりたかったよ」
「ふぁ……ぼんきゅっぼん…ってなぁに?スバル…」
「ペトラ、もう少し睡眠をとってきなさい。それではこれからの業務に差し支えますよ」
「はぁい……フレデリカ姉様……」

どうにか目を覚まそうと、ごしごしと目を擦っていたペトラをフレデリカが窘める。よほど眠かったのかそれに素直に頷いて、この館の最年少が話の場からフェードアウトする。最も多少生々しい話になるかもしれないので、これで良かったのかもしれない。

「確かになんッつうの?これまでの大将の匂いとはちょッとちげェ」
「ふぅむ、私も何も変わらないように見えるけどねーぇ……完全に無くなってしまったということなのかぁーな?」
「トイレ行ったら……なかったんだ……影も形もすっかりさっぱり」
「それで、余計な穴が貫通したと言うわけね。全く、今回バルスは何を仕出かしたのかしら」
「神に誓って寝て起きたらこうなってたんです……」

すんすんと鼻を鳴らしたガーフィールが不可解そうな顔をする。直ぐにフレデリカに女性の匂いを嗅ぐんじゃありません、と窘められていたが、匂いまでも変わるとは驚きだ。冷たい目線をラムから頂きながら肩を落とすとそっとそこに誰かの手が乗せられた。

「心配しなくても大丈夫ですよ、ナツキさん」
「オットー……!」

眠たげながらも慈愛に満ちた瞳で見つめられて、思わず表情を明るくする。もしや解決策があるのか、と期待したものの、続いて掛けられた言葉はある意味オットーらしいといえばらしかった。

「見た目には何も変わりないんですから、ナツキさんは通常通りにしてくれればいいんです。というか難癖つけてエミリア様の足を引っ張る格好の餌になるんで通常通りで良かったですよ。さらしで潰す必要もありませんしね」
「そうだねーぇ。女性になれば多少力は落ちるけれど、スバルくんはスバルくんのままだぁーよ。何、オットーくんの言う通り心配はいらない」
「そうか、ならよかっ………よいのかな?これ、俺は喜んでいいのかな?」
「喜んでいいんですよ……それじゃあ僕はもう少し寝ますんで……部屋にもどります……」

よろよろとした足取りで離脱したオットーの様子にあ、眠いだけだこれ、とスバルは察した。最も、太陽もまだ少し顔を出したぐらいの早朝に叩き起こされれば誰だって判断力も適当になるのかもしれない。現にオットーをきっかけに皆解散しだした。

「スバルが、おんなのこに……」

ただ一人、不思議そうな顔をしてエミリアがスバルのことをじっと見つめている。ちらちらと顔を中心的に観察されて、もしや顔も変わったのかと密かに目つきなどに期待するも、艷やかな唇から漏らされた言葉は残念なことに予想していたものではなかった。

「うぅん……ごめんね、スバル。何が変わったのかさっぱりわからないの……」
「いいんだよ、エミリアたん……変わらないほうが良いらしいし……」
「あっ!でもでも、ちょっと目つきが柔らかくなったかなって、あと睫毛が伸びたと思うの!うん!」
「エミリアたん……ありがとう……」

全く慰めになってない。起伏や女性的魅力に乏しすぎる自らの体をなんだか残念に思いながらスバルは悲しさにかすかに滲んできた涙をそっと人差し指で拭って床に捨てた。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -