試運転
DVカレピ




「……あ、あぁっ!………く、…ひぅ、う…」

ふわふわと気怠く、熱に浮かされたような思考の中。遠くで誰かが苦しんでいる声が聞こえた。最も苦しんでいる、というよりはどちらかといえば嬌声に近いのかもしれない。どこかで聞いたことのある声だと、夢と現の狭間を揺蕩いながらユリウスはぼんやりとそんなことを思った。

「おい、オメェどんだけ薬盛ったンだ」
「睡眠剤と素直になれるちょっとしたやつ。そんな強いのは使ってないんだけどな……ま、そのうち起きると思うよ。どうせ解さなきゃ入らないんだし丁度いいんじゃん?」
「かっ!だから稚魚は稚魚なンだよ。意識がなきゃつまンねぇだろ、オイ…ったく、」

丁寧に躾けられて快感を拾うようになった後孔を無遠慮に犯していた太い何かがぐるりと内壁を掻き混ぜる。的確にユリウスの良い箇所を刺激していくのが気持ち良くて、与えられる快楽を追うように腰を揺らす。すると一度引き抜くそぶりを見せたそれが、ユリウスの意思を汲み取ってまた奥に潜り込んできた。

「は、ふっ……」

前立腺を優しく撫でられて、きゅうと自分の穴が締まるのがわかる。気持ちいい、気持ちいい。霧がかかったようになった思考をどこかおかしいと感じてはいるものの、何故かそれに抗うことは出来なかった。

「完全に飛んでるなぁ」

こっちの素質もあったのか、と誰かがぼそりと呟いた。聞いたことのある声だ。憎み切るには優しすぎて、それでも殺したいほどに憎らしい、人間の声。完全に恨めないのは彼がユリウスのことをこれほどなく丁寧に扱っていると分かってしまったからだった。彼の知り合いや友人を何人も殺した敵国の将であるのに、出来る限り不自由に、不具にはさせまいと気遣われていると、そう知ってしまってからは抵抗を続けるのが格段に難しくなった。

彼の紡ぐ言葉はこちらを堕落させる甘い蜜にも似ている。こうすれば楽になる。ああすれば気持ちがよくなれる。突き放して、抱きしめる。そうしたものを信じたことはないが、書物に書かれている悪魔はきっとこのような存在なのだろうと時々思う。

「んじゃ俺は席外すけど……壊さないでね」
「誰にモノ言ってンだ?稚魚。オメェ、俺がそンなことする野郎に見えンのかよ」
「いや前やらかしたから言ってるんだよな」
「ありゃその前に稚魚がやりすぎたンだろうが。あ?オイ、オメェ、責任転換すンじゃねぇぞ」
「え、俺のせいなの…?」

生暖かく滑りを帯びた何かが下腹部に垂らされて、腹の中を犯すものが増える。気持ちいい。ただそれだけしか考えられず、増えたものを食い締めると電流のような痺れが背骨を伝って脳に届いた。軽い絶頂に頤を上げて荒い息を吐くと、以前と同じように戒められた四肢に繋がった鎖が涼やかな音を立てた。

その音に、何かがおかしいと微かに残った理性が囁く。何故、どうして、一体何が。脳を焦がす快感に翻弄されながらもおぼろげな記憶を辿る。

「………あ、…?」

そうだ。彼はどうした。ユリウスに近づいてきた自国の諜報。脱出の手筈を示されて、綿密に計画されたそれに頷いた。そこまでは覚えている。だがそこから先の記憶がない。どうして、と焦りながらやけに重い瞼を薄く開く。ぼんやりと、鮮血にも似た赤い髪が近くに見えた。手を伸ばせば触れられそうなほど近い距離に、快感よりも驚愕が先に立つ。

「なっ、ぁに、何、が……」
「ようやく起きたかよ、オメェ」

肉食獣のような獰猛な笑みでユリウスを組み敷く男が笑った。特徴的な色の頭髪に青い瞳、その片方を隠す黒い眼帯、異国風の着流し。敵国の中でも名のしれた人物の特徴に一致すると思い当たってユリウスは思わず息を呑む。

「あなた、は……レイド・アストレア、……?」
「こりゃあ驚きだ。オメェ俺のこと知ってンのか」
「……知るも何も……貴方の、居る場所に、むかわせた部下は……皆帰って、こなかった…」
「かっ!そうかい。そりゃあ悪かったな」

欠片も悪いだなんて思っていないような口ぶりで恨み言を嘲笑われる。最もユリウスとて、謝罪の言葉を求めていたわけではない。それよりも何故、とその2文字の言葉だけが脳内を渦巻く。この下劣な拷問に切り替わってからというもの、拷問卿が他者を使ったことなど一度もなかった。勿論ユリウスの身の回りの世話などには人員が割かれているが、それだけだ。

「・・・・・・・何故、貴方が、こんなことを・・・?」

名前と存在は知っているものの、初対面に等しい人間に体を暴かれることへの緊張にか。様々な疑問を捨て置いてどうにか絞り出した声は微かに震えていた。

「何故って、そりゃ自分が一番良く分かってンじゃねぇのかよ」
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