ネタメモに書いてたやつ スバルがキレてるので口調が悪いしモブが漏らす
モブに名前はない
薬物とユリウスの原作バージョンとして考えていただければと思います





「騎士として、真に恥ずべきことではあるが」

地獄の底から響いてきたような、あまりにも殺意と恨みに満ちた声だった。

「これほどまでに私情で人を殺めたいと思ったことはない」

必死に欲望を抑えているのか、ギリギリと歯が軋む音が幻聴として聞こえた気がした。体を苛んでいる熱によって噴出した汗に濡れる髪が、頬に一筋張り付いているのが精悍さを更に増している。横にいるスバルはまだいいが、そのユリウスの目を直視している男は堪ったものじゃないだろう。一瞬で蒼白になった顔にはユリウスの物とは違う類の汗が浮かび、体も小刻みに震えている。間違いなく人生のトラウマナンバーワンになったに違いない、と思いながらスバルはユリウスの肩を軽く叩いた。

「・・・・・ッスバル、止めてくれるな」
「いや止めるっつーの。後悔するのお前だし」
「・・・・・、」
「自覚はあんだな?なら下がってろ。エミリア達には近寄るなよ」
「・・・・・・・・・・・承知しているとも」

ふーっ、と動物が威嚇をするような息を吐いて、ユリウスがよろよろとした足取りでスバルの後ろへと向かう。エミリア達女性陣が固まっているところには近づこうとしないのをちゃんと確かめてから、スバルは縄でぐるぐる巻きにされた可哀そうな男を見下ろした。最も可哀そう、というよりは自業自得なのだが。

特にこれといった特徴のない男だ。人好きのする顔には後ろめたいことなんかなにもなさそうで、性格も話した限りでは温和だった。だから、次の町に向かう護衛が急な用事でいなくなってしまったと食事処で嘆いていた男にユリウスが声を掛けたのだ。別にこれはユリウスの落ち度なわけではない。隣の席で沈まれていては飯もまずくなると言うものだ。だから彼が言い出さなければスバルかエミリアか、そのどちらかがきっと声を掛けていた。

「しかし、恩を仇で返すたぁな・・・驚いたぜ」

積み荷は、次の町の領主に頼まれたものだと言っていた。一応積み荷を確認させてくれへん?と探りを入れたエキドナに申し訳なさそうに謝り、領主の書状だといってこちらに渡した封筒には確かに隣町で名の知られた人物のものだったそうだ。とはいえ、それを読んだのはエキドナのみであるため、スバルも実際のところはわからない。ただエキドナはそこで嘘を付くメリットもなければ示し合わせて合流したわけでもないのだろう。名前の元となった主のように明確な感情をあまり表に出さない人工精霊も、この男が起こした騒動については侮蔑の瞳を向けている。

一体何が起こってしまったのか。一言で言ってしまえば人間の「悪意」から起きた事件だ。最も「欲望」と言ってもいいのかもしれない。

「・・・・ま、「男」に盛った、のはまだマシな方か。お前がエミリアやアナスタシアさん、ラムとかに手を出してたらよ、俺だってユリウスを止めなかったよ。むしろ俺が手を下したくなるぐらいには、な」

スバルに睨まれた男が猿轡の下でくぐもった悲鳴を漏らす。人を殺したことがあるような、なんて言われるときもある目つきが更に凶悪になっている自覚はしていた。あまりの怒りに米神の血管がブチ切れそうだ。だがそれを抑える気持ちは一切なく、寧ろ恐怖からインポになってしまえばいいとすら思う。同じ男としてそうしたことはあまり願いたくないが、さすがに情状酌量の余地は一切ない。それぐらいの罰が妥当だ。

「もう一度聞くが、本当に中和剤みたいなもんはないんだな?」
「・・・・・・ううゥッ!む、ウッ!!」
「俺らは温和な人間だからよぉ。拷問とかそういうのは得意じゃねぇんだわ。だからあんたたちのあるかどうかわからない良心、ってやつに賭けるしかねーの・・・・・そうか、ないんだな」

必死に首を縦に振って意思を訴えてくる男の姿は哀れだ。どうせ男二人に女子供が六人、その中でも明らかに手練れそうなユリウスを快楽を餌にして引き込んでしまえばやりやすくなると思ったのだろうが・・・それはあまりにも悪手だった。ユリウスの名前が売れていない現状はこの時ばかりは幸運だったのかもしれない。

「お前が手玉に取ろうとしてた男はな、覚えてないかもしれねえけどルグニカで「最優」って呼ばれるほどすげぇし有名な騎士様なんだよ。そんなやつがクソッタレな違法薬物なんかに負けると思うか?あ?」
「グ・・・、んム、ゥ・・・」
「俺に盛ってたらもしかしたら・・・いや、それもねぇな。ま、俺たちを標的にしてた時点で詰みだ。運が悪かったな、あんた」

スバルは自分がおかしい、と感じたら恐らく死に戻る。この男に強姦されそうになっても同じだ。まぁ後者は逃げでもあるが、少なくとも旅の仲間たちの誰かが毒牙にかかる前に本体を叩き潰すであろうことは間違いない。男の胸倉をつかんで至近距離でそう吐き捨てれば手から伝わる震えがますます激しくなる。じゅわ、と何か液体が漏れる音がして、まさかと思って下に目を落とせば男の股座がじんわりと湿っていく光景が見えた。

「・・・・・・・漏らすほどか?俺如きで漏らすんなら最初からこんな商売に手ぇ出してんじゃねぇッ!!」
「・・・・ッ、・・・・」

数えきれないほど死は体験してきたが、手練れ特有の気迫といったものはまだ自分に宿っていないと自覚はしている。勿論怒気と目つきで多少は上乗せされているだろうが、そんなスバルに。まだ騎士としてはひよっこなナツキ・スバルの怒りに失禁するほど怯えるぐらいなら最初から手に余る商売に手を出すなと言いたい。

「・・・・あんたのことは、一応次の町まで連れて行ってやる。こんなところに放置して、獣に食われたら流石に寝ざめが悪い」

これ以上こちらに悪意を向けることがないように、そんな邪な心を折れるように男の耳元で囁く。

「逃げ出したり、またなんかやらかそうとしたら、次は容赦しねぇ。俺も、ユリウスも、他のみんなも」

次があったとしたら、スバルはユリウスを止めない。恐らくユリウスも静止の声を聞かない。他人の目があったというのに、ユリウスの食事にのみ薬物を混入させた手腕はやけに手馴れていた。だからきっと、これが初めてではないのだ。

脅しなどではない、本音が込められた言葉の意味をしっかりと理解できたのだろう。等々目から涙をこぼして、鼻水に塗れた汚い顔をくしゃりと歪めて男が頷いた。







共に行動を始めて、たった1日目の夜営でその悪意は牙を剥いた。同行の礼として振舞ってくれた食材のおかげで、いつもより豪勢な食事の後に急に体調が悪くなったらしいユリウスのことを男はやけに気にしていたのだ。私が持ち込んだ食材のせいでは、と焦りを見せて、体調不良に良く効く薬を持っているからと言ってユリウスの後を追って林の中に消えた背中を見送ったまでは良かった。スバルと同じように男の背中を見送っていたエキドナが、それまでユリウスが口をつけていた椀を手に取り、匂いを嗅いでしかめっ面をするまでは。

「・・・これ、うちが知ってるあかん薬の匂いがする」
「・・・・・・・は?」
「ちょっとナツキくん、椀貸してみぃ」
「お、おう」

いきなり言われた不穏な言葉に思わず口がぱかりと開いた。深刻そうな表情でちょいちょい、と手を差し出されたのに思わず素直に椀を渡す。食べかけのシチューの匂いをすん、と嗅いだエキドナはしかし不思議そうに首をかしげて、ナツキくんのには入ってへんな、と呟いた。

「怪しいなぁとは思っとったけど・・・なんでユリウスのだけ、こんなもん入れたんやろ。わからんなぁ。普通女の子に盛るもんなんやけどな」
「は?それって・・・」
「んん、まぁ、シチューの匂いで殆どかき消されてる・・・けど、一度嗅いだことがある人間ならわかるもんやわ。ルグニカでは違法になってる、媚薬の匂いやね」

爆弾発言にもほどがある言葉をさらりと言って、エキドナが二人が消えた林の方を見る。今だ事情が分かってなさそうなエミリアはさておき、事情を理解したであろうラム、メィリィ、ベアトリスが腰を浮かせるもそれはすぐにエキドナに止められた。

「今、女の子がいったらあかん。これ、かなりキツイんよ。それこそどんな人間でも理性をなくしてしまうぐらいには」
「じゃあ、ユリウスも・・・」
「ぶっちゃけ男にも効力あるからなぁ、下手すると力入らんくて、手籠めにされてるかもわからんわ・・・申し訳ないけどナツキくん、はよう行ってあげてもらってもええかな。流石にうちの騎士自称してる人に、傷ついてほしくはないんよ」
「・・・えーっと、それってユリウスが理性なくして暴走する意味で?それとも相手を殺しちゃう意味で?」
「どっちもや。ほら、そんな悠長にしてる時間なんてないで。さっさと行く!」
「はいっ!」

どうにも急展開すぎて思わずふざけたことを口にしたスバルをエキドナが睨みつける。その迫力に背筋がぴんっと伸びたのがわかった。慌てて立ち上がり、スバルにできる限りの全速力で駆けていく。森と比べれば木が乱雑していない林ではあるが、月の光しか光源がないのには少々辟易とした。ランタンでも持ってくればよかったかな、と思いながら答えがあることを期待して叫ぶ。

「おいっ!!!ユリウスーーー!!聞こえたら返事しろっ!!」

虫の声と草木が風に揺れる音しかしない暗闇の中では、自分の声すらやけに耳に響く。何か呼び声か呻き声でも聞こえないか、と耳を澄ましたスバルの耳に、ずる、ずる、と何かを引きずるような音が聞こえた。生憎とそこまで耳が良いほうではないので勘ではあるが、音がした方に向かって足を進める。

「・・・・ぁ、・・・」
「ユリウスっ!?・・・駄目だ、全然見えねぇ。無事か!?」
「ぶじ、とは・・・到底言えないね」

幸いなことに方角は合っていたらしく、微かにユリウスと思わしき呼び声が聞こえたので足を速める。段々鮮明に聞こえ始めたユリウスの声に交じって、ずる、とまた音が聞こえた。一体なんだろう、と立ち止まったスバルの前に、闇から漏れ出たようにユリウスの顔が現れる。

「どわっ!・・・びっくりした。心臓に悪すぎる登場すんな!」
「・・・・・・すまないね、君に配慮をする余裕もなくて」
「ぉう、・・・わりぃ。てかお前なに持って・・・ああ・・・」

覚束ない足取りのユリウスが引きずっていたのは昏倒しているあの男だった。血などはついていないから、殺してはいないのだろう。ただ、ユリウスの着衣は乱れており、何かが起こりそうになったのだということはありありと想像できる有様だった。男を運ぶのを引き受け、エミリアたん達のところに行く前に直しとけよ、と指摘する。

「・・・・ああ、そういえば、そうだった。不甲斐ない」
「いや不甲斐ないもなにも・・・お前が無事で本当によかったよ」
「ありがとう・・・流石に私も、いきなり襲われては手加減ができなかったのだが・・・息は、しているかな?」
「気絶してるだけっぽいから心配すんな」
「それは、よかった・・・」

ふぅ、と安堵にかそれとも少しでも熱を逃そうとするためにか、ユリウスがやけに熱いため息を吐いた。木によりかかって、何かを耐えるように前屈みになるのに、混入されたらしい薬物の影響を悟る。

「ついてこれるか?一回抜いてくれば?」
「この薬は、私も知っている。一度快楽を知ってしまえば再度それを渇望してしまうことも・・・だから、効力が失われるまで耐えるしか、ない」
「ウヘェ、ほんっと最悪だなこいつ・・・てかお前薬盛られてたの気づいてたの?」
「いや・・・食事を終えてからのこれだ。何かを摂取させられたことは理解できていたが・・・詳細は、この男がぺらぺらと喋ってくれたよ」

爪が甘い、と苦笑してユリウスはもう一度、意識を切り替えるように息をついた。頭を振って、体を立て直した様子は薬を盛られただなんて思えないぐらいにしっかりとしている。だがよくよく見れば頬は上気して赤く染まっているしやけに発汗していた。水魔術とか効かねぇかな、と思いつつエミリア達が待機している場所へと急ぐ。

「・・・スバル、君に頼みがあるのだが」
「ん?なんだよ」
「私がもしアナスタシア様や、エミリア様達に近づこうとしたら殴ってでも止めてくれ」
「・・・・・おうよ」

お互い無言で歩く道のりの途中で、そうユリウスが呟いた。理性の塊のようなこの美丈夫がそんなセリフを口にしてしまうほど、あの薬物の効果は強いのだろう。メタメタのボコボコにしてぇな、と遠慮なく引きずっている男に殺意を抱きながらスバルは前を見据えた。月明りとはまた違う、柔らかな炎が生み出す光を前方に認めて、微かにその足取りが早くなる。合流したらそれはそれで新たな問題が勃発するかもしれないが、とにかく今は少しでも早くあの暖かい空間に辿り着きたかった。






男が吐いた情報によれば、領主とは関係がないらしい。奴隷は禁止されているが娼婦や男娼といったものは禁止されていないルグニカでは、そうした「奴隷ではない」という抜け道が裏で蔓延っていたわけだ。人の欲望は抑えきれるものではないし、どんな法にも抜け穴が存在する。恐らく次の街に、そうした組織があるのだろう。

「うちが王になったら、そこんところはっきりさせとかんとあかんねぇ」

帽子の飾りを弄っていたエキドナがぼそりと呟いた。まぁ王になるのはエミリアたんだけど、と心の中で思いながら頷く。「エキドナ」は別にそんな考えは持ってないだろうが、「アナスタシア」ならそうするだろう。勿論エミリア、クルシュ、フェルト、プリシラといった他の巫女だって、この話を聞いたら対応するに違いない。

「ベア子、ちょっと今日は一緒に寝れねぇわ」
「・・・わかってるかしら。ないとは思うけど、気を付けるのよ」
「幾らムラムラしてるからって流石に同性は襲わねぇだろ・・・ま、一応エミリアたんに氷の結界張ってもらうから、そこに引っ込んどけばユリウスが来たってまたあいつがなんかしようとしたって大丈夫だ」

ぽんぽん、とベアトリスの頭を軽く叩く。一緒に寝られない、という不満からか微かに頬を膨らませたベアトリスがスバルの服の裾を握って、何かあったらすぐにベティーの名前を呼ぶかしら、と言ってくれた。有り難いことではあるが流石に「何かあったら」ということはスバルとユリウスがその何かに発展しそうになった最中に呼ぶわけで・・・見た目通りの年齢ではないとはいえ、幼女にそんな光景は見せたくないなとスバルは思った。

「・・・・おーい、ユリウス」

1つ開けてもらって、そこにユリウスを押し込めた竜車の中は真っ暗闇だった。ランタンは渡していたはずだが、と訝しく思いながら荷台へと足を踏み入れる。

「スバル、か」
「大丈夫か?いや、ダメなのは分かってんだけどさ、なんか持ってきてほしいとかあったら遠慮なく、」
「………ふ、そうだな。一つだけ頼みがある」
「ん?とりあえず言ってみ」

もぞり、と暗闇に包まれた竜車の隅っこで大きな塊が動いた。犬のように荒い、苦しそうな呼吸が聞こえてどうにかしてやりたいと思う。水でも持ってくるか、エミリアたんに冷やしタオルでも作ってもらおうか、と考えたスバルにユリウスが弱々しい声でとある提案をしてきた。

「私の手足を、拘束してもらっても良いかな」
「え………なんで」
「こうも高められているのに自分で処理をしないでいるというのもなかなか、……く、ぅ、……きつぃ、ものでね。物理的に戒めてしまえば欲に負けずにいられるだろう」

間に挟まれたやけに艶っぽい呻きに内心ドキドキとしながら真剣な表情でユリウスの願いを聞く。確か縄は竜車に積んである雑貨入れに入っていたはずだ。何故に縄、と思うかもしれないが、結構旅では重宝する。特に焚火に使用する枯れ枝をまとめておくのに便利なのだ。

「えーと、縄、縄、縄。どこにやったかな・・・。おいユリウス、なんで明かりつけねぇんだよ」
「・・・・・・・明かりは・・・」
「お、これかな?多分。これっぽいな」

真っ暗闇のなか、ぶちぶちと文句をいいつつ指先に振れる触感で必要なものを選別する。何度かよくわからないものを触ったが、無事に見つけることができてスバルは喜びの声を上げた。

「よーし、じゃあ縛るぞ。明かりつけてくれ」
「・・・・・暗闇のまま、やってもらいたい」
「そんな無茶言うなや・・・」

こちらの世界にきてから身体能力は劇的に上がったが、流石に月の光すら遮られているこの場所で細かい作業をするのは無理だ。そんなスバルの困った感情を察知したのか、ごそごそとユリウスが動く音がして、それから小さく柔らかな炎の明かりが闇を晴らす。

「さんきゅー。ほんじゃ縛っていきますけども、どんぐらいきつくすればいい?」
「身動きできないように、頼む」
「あいよ」

顔を見られたくないのか、自分のマントをすっぽりと被っているユリウスに近づいてすでに後ろに回された手を取る。いつもつけている白手袋が外されたその手はじっとりと汗ばんでいて、熱かった。スバルが触っただけで微かに声を漏らしたのは聞かないことにして、とりあえず、素人手順ではあるがぐるぐると手首で拘束する。

「足も、頼む・・・」
「え、でもそれだと移動もできないじゃん」
「君も男ならわかるだろう。今の私は自分を抑えることが難しい。少しでも憂いは取り除いておきたい」
「ん・・・まぁ、その気持ちは確かにわかるけどさ・・・しょうがねぇな」

マントで顔が見えないこともあって、なんだか絵姿が誘拐された人間みたいだ。そんなことを考えつつ、手は後ろ手に、足は前に重ねて縛る。

「他にやってほしいことは?」
「・・・・・・そう、だな。話し相手になってほしい。少しでも気を紛らわせたいんだ」
「わかった・・・今夜は眠らせてやらねぇぜ。覚悟しろ」
「ふふ、そうしてくれると助かる、ね」

微かに笑う気配がした。幸い話すことには困らない。なんやかんやエミリア陣営は笑いあり涙ありなドタバタ騒動が多いのである。普段ならユリウスには絶対にしないような話ばかりではあるが、どれがいいか、と脳内で最近あった出来事を探りながら乾いた唇を軽く舐めて潤す。

「そうだな、精霊大好きなお前にうってつけの話があるわ。ま、結構前に起きたことなんだけど、俺とオットーとガーフィールの3人でオットーの故郷に向かった時に───・・・」






「ってなもんでそこでオットーがやらかし・・・・ユリウス?おい、大丈夫か?」

一度乗ってしまえば湯水のように言葉が口から沸き上がってくる。ユリウスの相槌や笑い声をBGMに、時折出される質問にも答えつつスバルの他愛のない話は続いていた。口が良く回るタイプの人間でよかったとこの時ばかりは思う。しかし、段々とユリウスの口数が減っているのには流石に気づく。

「・・・・もんだいない、はなしを、続けてくれ」
「流石にそうなんだわかったで流せる感じじゃねーよ。うーん・・・どうすっかな・・・」

問いかけると一応返事は帰ってきた。口を開くのも億劫なのだろうか、いつもと違うたどたどしい口調が余計にスバルの心配を加速させる。よっこらせとあぐらを掻いていた脚を崩してユリウスに近づくとびくりとマントの塊が震えた。

「エミリアに氷水作ってもらうから待ってろ」
「・・・・・、」

すぐ戻る、と前置きして急いで竜車の外に飛び出す。ドームのように氷で囲まれた場所へ向かい、こんこんとノックするとその一部が溶けて紫紺の瞳が姿を覗かせた。

「すばる?・・・ユリウスは平気なの?」
「あんまり大丈夫じゃないかも・・・エミリアたん、水冷やしてもらっていい?氷も浮かべてくれると助かるかな」
「うん、わかりました」
「あとアナスタシアさんに話したいことがある。もう寝てる?」
「ううん、みんな起きてるの。やっぱりなんだか眠れなくて」

ちょっと待っててね、との言葉とともにエミリアの瞳がスバルの視界から引っ込む。少しして、氷水が入っているのだろう皮袋とともにエキドナが難しそうな顔をして中から出てきた。特に皆に聞かせたい話でもなかったので、少し離れた所へ誘導する。

「・・・・・・あのさ、あの薬って一回でも抜いたらやばいの?」
「ううん、・・・そうだな、ボクも詳しいわけじゃないんだ。知識としてあるだけなんだけど」

例えば、と前置きしてエキドナがぽつぽつとユリウスに盛られた薬の効果を話す。

「一度美食を体験したら、その前の食生活には戻れないし、戻りたくないといえば良いだろうか。勿論彼はそうした欲求も跳ね除けることができる人間だとは思っている、が。現状が現状だ。そもそも精神状態は悪いだろうし、肉体も万全じゃないはずだ。だからできれば避けたほうが良いだろうね」
「・・・そっか」
「特に他者との交わりは厳禁なので、注意するように」
「いややらねぇよ!?俺もあいつも男だよ!」
「生殖器がついているのだから可能じゃないか」
「まぁ可能ですけど・・・俺的に同性とはあれこれしたくないかなって・・・」
「そうか。ではそちらの心配はないね・・・あと先ほどの質問だが、それでも一度ぐらいは処理しておくことをお勧めする。性欲に支配されて間違いを犯すよりは余程良い」

色々と言いたいことはあったが、一晩たてば効果も薄れるはずだから、との忠告に頷いて皮袋を受け取る。駆け足でユリウスの待つ竜車に戻ると、動いてこそいなかったものの脱力して床に倒れ込んでいた。慌ててマントを捲って状態を確かめようとするスバルに、ユリウスの静止が入る。

「・・・・・・まってくれ、すばる」
「え、なんで?水持ってきたんだけど」
「すきまに、差し入れてくれ。じぶんで、飲む・・・」
「手ぇ縛られてるじゃん」
「それでも、だ」
「なにその意地・・・わかったよ。ほら」

よくわからない意地を張るユリウスにため息をついて、マントの隙間に皮袋を押し込む。せめてと手が使えないユリウスの代わりに、袋が倒れないように支えてやるともぞもぞと動いて、恐らく飲み口を咥えたのだろう振動が伝わってくる。手に持った袋から水が吸い上げられていく感覚が少し妙な感じだった。

「もう、だいじょうぶだ」
「あいよ」

ぷは、と小さく息継ぎの音が聞こえた。粗方飲み干された皮袋を回収して、無言でユリウスの隣に座りこむ。エキドナが言っていたことを伝えるべきか否か、と迷いつつ未だ荒い呼吸を続ける
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