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「―――……!! 見よ、お前の好む花だ! ほら、美しいだろう!? お前の為にこの私が摘んできたのだ!! 喜べ、笑え!!」


いつの間にか桔梗は何処かの縁側に腰掛けていた。そして目の前には何故か騒がしい子供

桔梗は突然の出来事に頭がついていかなかったが、とりあえず目の前のことを理解しようとした

まず、自分の目の前で誇らしげに胸を張るのは、まだ元服もしていない子供だった

そして、その手には白色の花が一輪握られている


「何故、何も言わぬのか?? 私はお前の喜ぶ顔が見たいのだぞ??」


先程とは打って変わって不機嫌な顔になる子供は、よくよく見ると覚えがある

利発なくせにそれを打ち消すかのように騒がしい子供

そうか、これは私の……過去だ




―――――――――


「吉法師……」

「目が覚めたのか桔梗」


口から出た言葉は子供の名前であったが、その子供は既に目の前にはいなかった

代わりに落ち着いた色の着物が目に入り、さらに規則正しい心臓の音も聴こえる

寄り掛かっているものは温かく、心地よい

どうやら此処はあの縁側ではないらしい

ちなみに先程、頭上から自分の耳に届いたのは幼い声ではなく、青年の声である

何が何なのか理解するのに頭が追い付かず、瞬きを数度行う


「……??」

「まだ、目覚めきってはいないのか? まったく、執務をしにくいのだが」


溜め息交じりに紡がれた言葉には嫌味はなく、ただ口にしただけみたいだった

自分を包み込むように座る青年は、正面の机で何やら書き物をしているらしい

桔梗は青年の衿を掴んで自身の方へと引き寄せる


「どうした??」


彼女の行動に異変を感じたのか、男は書き物の手を止めて腕の中の女性を見つめる


「……昔の夢を見た。幼い吉法師が、私に花を差し出してた。私が好きな花」

「…あの方はもういない。桔梗、寂しいか??」


寂しいか、その問いには是と答えるしかない

それほどまでにあの子は自分にとって大切な子だった

あの子を失った時、心が真っ白になってしまうほど

だが、あの時に感じていた喪失感はもうない


「失ったものは私にとっては大きい。ぽっかりと穴が空いていた、ずっと……。けど、あの時にお前が見つけてくれたから」


先に行っていろ、そう言われて待っていたのに。自分の元に届いたのは自害という知らせ

士官当初は従順であったあの男が反旗を翻したのだという


「それは、まぁ……。あのようなところで一人で泣かれていたらな」


手を差し伸べて、ただ傍にいてくれた。それだけのことでもただただ嬉しかった

執務の手を止め、心配そうな顔で覗き込んでいる彼の頬に手を添え、そっと感謝を言葉にする


「ありがとう」


私が壊れなかったのは目の前の彼の御陰だった

隠威の言葉すら耳に入らなくなっていた私に手を差し伸べてくれた、顔を知っていた程度の人

ただ他人が傍に居てくれるだけで救われた

それが私と君の本当の意味での出会いだった




‐END‐

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