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「おぉー…」


腕試しを受けるといった創真を厨房へと案内すると、彼から感嘆の声が上がった

創真の感嘆も不思議ではない

ゆりな自身も、入寮当初はあの外観からこんな立派な厨房があるとは信じられなかったからである


「いいかい、アタシは虚勢を張るガキが一番嫌いなんだ! アタシがどれだけの数、学生達の料理を味見してきたと思ってる…! 急ごしらえの品なんかに及第点を出すと思うのかいっ」


ふみ緒さんの言うとおりだ

ふみ緒さんは優しいけれど、料理に関しては一切妥協しない

ゆりなは不安を隠せないまま、創真を見守る

創真は厨房に残った食材をチェックしながら献立を考えているようだった


「ん! これだけあれば充分!」

「えっ、嘘…」


あの残った材料で献立が考えられたの…?

もし本当なら、凄い

ふみ緒さんも驚いて目を見開いている

ちなみに私は全然思いつかないです


「極星寮寮母大御堂ふみ緒どの、少々お待ちを!」


そういうが否や、創真は腕に巻いていた手ぬぐいを頭に巻くと、調理に取り掛かった

彼の調理は手早く、そして正確だった

材料を刻んだり、下ごしらえをする手際はかなりいい

ひき肉のようなものを丸めているのから、作っているのはハンバーグのようだが…


「あれ、でも確かひき肉なんかなかったはずじゃあ…」


じゃあいったい何を代用としたのだろうか

そんなことを考えているうちに調理が終わったらしい

盛り付けられた料理がふみ緒さんの前のテーブルへと出される


「…ひき肉牛も豚も1gすら無かったはずだ。どんな手品だいこの…、肉厚ハンバーグは!?」

「すごい…」


そう、目の前に出されたのは紛れもないハンバーグだった

焼き立てだから、肉汁があふれているようにすら見える


「これは鯖の缶詰を使った『鯖バーグ』だ!」

「鯖缶だって!?」

「鯖でハンバーグって作れるの!?」

「そっすよ先輩。 玉葱に卵にパン粉…そして汁を軽く切った鯖をほぐし混ぜて、塩・コショウを加え、焼き上げればふわふわの鯖バーグができるんだ!
 さらに鯖缶の汁にポン酢を合わせ、水溶き片栗粉でとろみをつけると…さっぱり風味のお手軽ソースに!」

「何をばかな…鯖缶のハンバーグなんか、生臭くて食えたもんじゃあ―」


パクリと鯖バーグを口にしたふみ緒さんはあまりの驚きに食べる手が止まってしまった

その様子から察するに、美味しいみたいだった

いいなぁ、美味しそう…

審査する必要のない自分は食べる必要はないのだが、未知の食べ物には興味があるので食べてみたい

審査が終わった後に食べさせてもらおう

そう考えているうちにふみ緒さんが、卵スープの方に手を出した

一口啜り、驚愕の声を上げる


「な…なんだいこれは!? あんた一体どうやってこれを!? こんぶも鰹節も…出汁をとれる物なんて無かったはずだ!!」

「それについては…ちょうど手持ちがあったんでね」

「す、スルメ!?」


確かにスルメでも出汁はとれるけど、そうそう思いつくものじゃない

幸平君…一体何者!?


「以上、名付けてゆきひら印の、あり合わせ鯖バーグ定食だ!!」


ふみ緒さんが一口、また一口と鯖バーグ定食を口にしていく

その顔は赤みをおびていく


「ふみ緒さん、遠い目してる…」


昔のことでも思い出しているのだろうか

その手はゆっくりと創真へと伸ばされ…


「放せババアーー!!!」


創真にキスをしようとしたところで、創真に止められた

止められたことで正気を取り戻したふみ緒さんが、一つ咳払いをして創真に部屋の鍵を渡す


「よろしい! アンタの部屋は303号室だ! 入寮を認める!!」

「お粗末さまっ!」

「おめでとう幸平君!!」

「うっす、ゆりな先輩。それじゃあ、俺風呂入ってくるんで、これで」

「うん。いってらっしゃい」

「おっしゃー、風呂だ!」


ドタドタと 創真が階段を駆け上がっていった

元気だなぁ、とその姿を見送った後に気が付いた


「ふみ緒さん…今って」

「あっ、今は女子の入浴時間だったね」

「……」





その数分後、田所恵の悲鳴が極星寮に響いたのであった



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