は 病 ?


「しばらく私に近付かないで欲しいアル。」
「はぁ?」

突然の神楽の申し出に、沖田は首を傾げる。
近付かないで欲しいと言われても、沖田は好き好んで神楽に近付いていたわけでもなく、たまに会う知り合いくらいの関係だ。

「お前が俺の行く所行く所現れるんじゃねェか。ていうかなんでィ突然、どっちかってーとお前が俺に突っかかってくるんだろィ。」
「そんなことどっちでもいいアル。最近お前と話してると動悸と息切れが激しいし熱も出てるっぽいアル。コレ絶対何かの病気ヨ。サドの事嫌いすぎて体がお前のこと拒否してるに違いないアル。今も心臓バクバク言ってるネ、ぶっ倒れるかもしれないアル。」
「いや訳わかんねェ。」
「とりあえず!お前が私の視界に入らなければいい話アル!」

そう言って神楽は走り去る。
いつも沖田にちょっかいをかけるのは神楽で、喧嘩をふっかけるのも神楽で、沖田はそれに付き合っているだけで。

それに待ち合わせもしていないのに毎日いろんなところで遭遇する理由は?
体調不良を起こすほど嫌なのにわざわざ声をかけてくる理由は?
て言うか本当に体調不良か?…いやナイナイナイ、あのチャイナがナイナイ。
グルグルと考えながら沖田は屯所への道を歩く。


神楽の突然の申し出からしばらく、沖田は絶好のサボりスポットである公園には立ち寄らないようにしていた。
他のところでどうにか時間を潰し、土方に見つかったらバズーカをぶっ放し、また別のところでサボる。
いつも会っていた神楽に会わないのは寂しいような気もしたが、お互い争わずに居られるならきっとそれが良いのだろう。

一方の神楽は悶々としていた。一緒にいると動悸息切れその他体の不調が起こるから近寄らないでほしいと言ったものの、いざ会わないとなるとなんだか気分が上がらない。それどころか何だか悲しい気持ちになる時さえある。

「神楽ちゃん最近どうしたの?元気ないよ?」
新八は心配してくれている。全部話してしまおうか。いや、知られてはダメだ。ん?なんで知られてはダメなんだ?
「…何でもないアル。」
そうだ何でもない。日常からサド野郎がいなくなった、それだけの話だ。「それだけ」と思った瞬間、胸がきゅっと痛くなった。


意識的にお互いを避け出してから2週間が経った頃、サボり中の沖田と定春の散歩中の神楽は道端でバッタリ出会った。
二人の視線がぶつかると同時に沖田は踵を返し、神楽は反射的に
「定春、サドを追っかけるアル!」
「エェェェェ!?」
必死で走ったところで巨大犬から逃げ切れるはずもなく、沖田はあっさり定春に捕まった。

「なんで逃げるアルカ。」
「なんでィ、チャイナが近寄るなって言うからその通りにしただけでィ文句あんのか」
「だからってアレはないアル。ちょっと傷付いたネ…。」
「そーかィ。女ってモンは全くわかんねェなァ。」

去ろうとした沖田を神楽が引き止めるので、先日の疑問が確信に変わった沖田は、少し楽しくなる。
立ち話も何だしと、2人並んで公園のベンチに座る。

「で、体調は?」
「お前のせいで最悪ネ。会ったら動悸息切れだし会わなかったらテンションだだ下がりヨ。」
「へぇー。」
「私が体調崩した責任とって欲しい位アル。」
「責任くれェ取ってやらァ。チャイナの症状の病名教えてやろうか。」
「サドお前さすがアル!って私やっぱ病気ネ、サドアレルギーとかアルカ?」
「恋。」
「…。」
「要するにチャイナ、俺のこと好きだろ。」
「なっ…なんでそうなるアルカ!」
赤面する神楽を見つめ、沖田は淡々と続ける。
「何でィお前自覚なかったのかィ?そらァすまねぇことしたなァ。」
そう言いながら神楽の頭を撫でる。
「触るなァ!」
「嫌でィ。自覚するまでやめねェよ。」
「や、やめるアル!」
「じゃあ抵抗でもすればいいのになァ?」
「っ!?」
ふいに引き寄せられ、沖田の腕の中にすっぽりと埋まる。
神楽が見上げた沖田は、いかにも楽しそうに笑っている。ドS王子のスイッチを押してしまったかもしれない…





自覚するまでやめない…。
神楽は思い返してみる。
ムカつく奴だけど、姿を見かけるとワクワクしたし、声が聞けると嬉しかった。喧嘩中でもなんでも、目の前の男が今見ているのは私だけだと思うと、幸せだった。
そして今も続く動悸は、病気なんかじゃないこと。
会えないと憂鬱だったのは、会いたかったから。
会いたかったのは…隣にいる憎い奴が、好きだから。


「おいサド。」
「なんでィチャイナ。」
「自覚したアル。」
「何をでィ。」
「何をって…言わせるつもりアルカ。」
「そういうのは直接聞きてェもんなんでィ。」

惚れた方が負けとはよく言ったもので、神楽は真っ直ぐ座り直して、自覚したばかりの気持ちと恥ずかしさやらプライドやらを天秤にかけていた。

「言わねェなら俺ァ帰るぜィ。」
悩んでいた神楽を現実に引き戻したのは、沖田の声だった。
「だ、だめアル!」
咄嗟に出た声。
「駄目かィ。理由は?」
意地悪く沖田が笑う。
考えても無駄と腹を括った神楽は、俯いたまま震える声で口を開く。

「…お前の事、好きって自覚したから、まだ一緒に居たいアル。だから、帰るなヨ。」

神楽が恐る恐る顔を上げると、そこにはニヤニヤしながら神楽を見つめる沖田の顔があった。

「何笑ってるアル…。」

全く恥ずかしい想いをしてまでこんなことを言ったのに、笑ってるなんて酷い男だ。神楽は再度俯く。

「おいチャイナ。」
立ち上がりながら沖田は言う。
「そういうのは神楽が俺を惚れさせてから言うべきでィ。じゃーな。」
「え…?」

状況が読めない神楽を置いて、沖田の背中は小さくなっていく。
「本当に恋は病アルナ…。」

「俺が神楽と同じ病に罹るのも、そう遠い未来でもなさそうだけどねェ。」
沖田が呟き微笑むと、風が舞い上がった。


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さらっと名前呼び沖田くん。Sってなんだっけ(´-`).。oO(
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