※オリジナル大量
※捏造




 秋島の冬、午前10時12分。ポーラータング号内、医務室。


 サシラは目を覚ました。白い天井を見つめていると、涙が溢れてきた。
「サシラ…?泣いてるの?」
 サシラが隣を見ると、ビニールの囲いが設置されており、中にはベッドが一台置かれていた。その上にはスパナが横たわっていた。口には酸素マスクが取り付けられおり、腕や足にはサシラの倍の数の管が繋がれていた。
 サシラは自分に繋がっていた酸素マスクも管も全て取り去り、スパナに駆け寄った。ビニールに額を擦り付け、声を押し殺し、泣き始めた。
「ぅぅぅぅうぅうぅぅぅぅぅぅうう…。」
「サシラ…泣かないで…。ぼ、僕、生きてる…よ…。」
「おれがぁ…おれ、おれがぁ…弱いから…!あの力を使っても、ダチ一人、守れんかった…!初めから、あの力をつこうとったら、お前をこんなんに…!……うぅぅうぅぅ…お前を、こんなんなしてもうて、本当に、おれは、自分がぁ…な、情けないィィ…。」
「サシラァ…!」
「ほんとうに…!生きてくれててありがとうな…ごめんなぁ…ごめんなぁ…!!!」
「うえ…うぇぇぇ…!ざじらァァ…!!!」
「スパナァァ…!!!」

「部屋、入りづらいですねぇ。」
「ほんとだよ。イッカク、チェスでもして待ってようぜ。」
「名案ですね。そうしましょう。」

 診察に来たローとイッカクは医務室の中を覗くのをやめ、娯楽室へと踵を返した。
 サシラとスパナはそのまま延々と疲れて眠るまで、互いを思って泣き続けた。


***


 午前10時31分。ポーラータング号内、娯楽室。


 室内では、シャチとペンギンが机でコーヒーを飲んでいた。
 ローは二人に尋ねる。
「よぉ。調子はどうだ?肉片はくっついたか?」
「今仕上がって、ホシが風呂に連れて行ったところッス。」
「にしてもぉ!本当にびっくりすよ!!!ハンチン−−−いや、イッカクさんがどんな風に洗脳したか知らないけどさあ!ほんと!だれ?!って感じ!別人!」
「あはは。」
「へー。そんなに?元の彼を知らないから、おれは比べられないけども。」
「元は狂人も狂人。ド狂人だよ。」
「そんなになのか…?」
「て言うか、今風呂場にはウニがいるんじゃないか?」
「うっわ最悪。ロー君、ここにいるのはやめて、ロー君の部屋に隠れませんか?」
「名案だな。そうしよう。めんどくせぇな。」
「すみませんねぇ。でも、良い戦力を拾ったでしょう?」
「また、海軍に顔バレしたらまずいヤツだけどな…。」
「今度は帽子じゃなくて、お面を付けさせたら良いんですよ。その方が、より一層悪の一団みたいになって、素敵でしょう?」
 イッカクはそう言って楽しそうに笑った。


***


 午前10時32分。ポーラータング号内、脱衣所。


「は?」
「いや、だから、どうしたんだ?おれ、何かおかしなこと言ったか?」
「は?え?ホシ、こいつだれ?」
「今日からうちに入った、イッカクの親友の、キャンサーだ」
「は?」
 全裸のウニが、全裸のキャンサーを震える指で差し示し、隣にいる全裸のホシに顔を向けた。
「キャンサーだ」
 それを見たホシは深く頷きながら言った。キャンサーは笑顔でウニに話しかける。
「初めましてだな!よろしく!えっと、おれはあなたをなんて呼んだらいいかな?」
「ちょ、まじで待ってくれ!きゃ、キャンサー君?フルチンのとこ悪りぃけど、ちょっとそのままで待っててくれ?−−−ホシぃぃ!ちょっと来ーい!!!」
 ウニはホシの首に腕を回し、脱衣所の隅に連れて行き小声で怒鳴った。
「なーーにがキャンサーだよ!あいつはどっからどう見ても!海軍中佐の、カニス・ハウンドじゃねぇか!お前らなんの冗談だ!おれを謀るつもりか…?!なんで今からいきなり裸の付き合いを余儀なくされなきゃいけねぇんだよ?!!どういう状況?!!」
「お前、ひどく臭うぞ。ノミもひどい…。風呂よりもまず、アルコールを噴いた方がいいんじゃないか?あんまり近くに寄らないでくれるか?」
 ホシはウニにがっちりと捕まえられている首を振り解こうとするが、ウニは離さない。
「そんなことったぁ今はどうでもいいだろうが!おれの質問に答えやがれ!」
「カニス中佐は、記憶喪失だ。そして、どうやらハンチン…イッカクが《イレイズ》をした直後に洗脳もしたらしい。彼の中では、イッカクとは幼い頃からの親友だ。うちには今日からイッカクの誘いで入団したことになっている…。入団前は、警備会社の用心棒として働いていたという設定だそうだ…。」
「ハァ?!」
「バンダ−−−ウニ、本当に臭い、いい加減離せ。吐きそうだ。」
 ウニはぐりんと首を回し、カニス−−−キャンサーを見た。
 ぐちゃぐちゃだった右の脇腹はローの能力のおかげで修復されているが、その姿は明らかにカニスだった。
「どうかしたのか…?そういや、あなたの名前、まだ聞いてなかったな!教えてくれよ。」
 キャンサーは太陽のような笑顔でウニに向かって微笑み、右手を差し出した。
「滅殺撲殺絞殺殺傷殺生…?とかは言わねぇのか…?」
「は?急になんだよ…?物騒なこと言うね。」
「………いや、なんでもない。おれはウニだ。よろしくな、きゃ、キャンサー…。」
「ああ!ウニ!こちらこそ、よろしくな!」
 脱衣所で二人は全裸で熱い握手を交わした。そして、風呂から上がったウニが、怒鳴り声を上げながらローとイッカクを探し回ったのは言うまでもない。


まっさら











20191007 第一部 完
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