「●●●!●●●●!!」


「へーき、へーき...なんとか、なるって...」


そっと「彼」の手が私の頬に触れる。


「●●!●●●●●!!」


「彼」の声は聞こえるのに、私自身の声は聞こえない。何か、大切なことな気がするのに。


「ごめん。」


そう言って「彼」の手が私の頬からずり落ちた。躯から溢れる血は止まることはなく、その瞳が私を映すことももうないと悟ってしまった。周りにいた人達も「彼」の名前を必死に呼んでいるのがわかった。わかったけど、聞こえなかった。

そして私の意識は闇に落ちた。

目を覚ますと、そこは私の部屋だった。むくりと起き上がると、頬に何かが流れる感触がした。夢での「彼」の手が触れたときの血の感触が蘇ってゾッとした。思えばアレはリアル過ぎて本当にあったことなのではないのかとすら思ったほどだ。

(涙、か...)

恐る恐る触ると、ただの透明な液体であったことにホッとする。


制服に腕を通しながらずっと夢のことを考えていた。
夢で泣くなんて何年ぶりだ。あの死んだ「彼」は誰だろう。夢の中の人に興味を持つなんて、私どうかしちゃったかな?


「名前でも泣くことってあるんだね。」


昼休みの教室。私は少し気になって、数少ない友人に今朝のあの夢の話をした。そしたらこの反応だ。この友人は今年初めて同じクラスになったが、何故か昔からの級友のように感じて、一緒にいて楽だった。

「すっごい失礼なこと言うね君。」
「いやだって名前っていつでも気を張ってるっていうか、ライオンみたいに威嚇してたってことで有名だったじゃん。だから友達いなかったんでしょ?」
「黙れ。あんただって私と会うまでぼっちで有名だったじゃない。今はそんなことないよ。ただ...」
「ただ?」
「その頃はね、誰かを探しているのかもしれない、と思ったことはあったんだよね。」


昔から街や学校みたいな人の多いところに行くと、目が落ち着かなかった。道行く人の顔を見ては失礼だが落胆し、を繰り返して気づいた。
それが誰かなんて、今もわかってはいないけど。

「あー、でも、あんたと会ってからは無くなったなあ。そういうの。」
「...」
「どうした?お腹壊した?」
「ねえ、名前。」
「何?」
「俺、名前のこと好きになってよかった。」
「ホントにどうした。頭打ったか。」


すっごい幸せそうな笑み浮かべて言ってるけど、これ私悪くないよね? こんな返答しちゃったけど仕方ないよね?
なんの脈絡も無く告白まがいなことされたよ。しかも教室で。今までそんな素振り無かったじゃん。そして周りよ頼むから気づくなよ。

「俺はずっと前から名前のこと好きだったよ?それこそ...」
「それこそ何だよ。」

出会う前から、などとは言えなかった。

「...別にー。」
「え、ちょっと、気になるじゃん。教えてよ。」
「いやあ、生きるって素晴らしいなあ、と。」
「なんだそれ。」

こうなった友人はもう教えてはくれないと思った。だから、いいや。

「ところで、俺の渾身の告白の返事は?」
「...今必要?」
「うん」
「...よろしくお願いします?」
「なんで疑問形?」
「さあ?」
「まあここでフラれたら俺一生独身だね。結婚相手なら名前しかいないと思ってるし。」
「なっ何言ってんの!?」
「俺結構本気だよ?」
「...バカ。」
「バカで結構ですー」



(このクラスになって君を見つけたとき、やっと見つけたと思った。)
(やっと、独りが終わったんだと思った。)
(さっきの話で君も死んでも俺を探してくれていたんだ、と嬉しかった。)
(だからもう、離さないし離れない)
(もう一度始めるんだ。最初から。)






「多々良!多々良ぁ!!」

俺が死ぬとき、俺はキングや名前、皆を置いて逝くのが辛かった。

「へーき、へーき...なんとか、なるって...」

だから泣かないでよ。手を伸ばしても力が入らなくて涙を拭えない。

「嫌だ!逝かないで!!」

でも、皆が泣いて俺を悼んでくれて、#NAME2 #の腕の中で死ぬんだなと思ったら、不思議とそれも悪くないと思った。
そう考えている自分に気がついて、吐き気がした。
だからせめて、最期の最後に謝りたくなったんだ。

「ごめん。」

最期に見たのは、俺の血が頬に滲んでいる名前の泣き顔だった。
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