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「私には夢があるの」
適当にジャンプをぺらぺらめくる音と、春風が戸をゆする音。夢、か。妙は洗濯物を畳む手を止めて言った。
「へぇ、」
「まあ万年ニートの天パの役立たず男にはわからないでしょうね」
「ストレートに銀さんって言えば!?」
ふふ、と口許に手を当てて笑う女の夢が何なのか気にならないわけじゃない。ただ、俺には問いただせなかった。
「…ンだよ」
俺は、妙のその夢とやらを聞くのが怖いのだと分かった。聞いたってきっと叶えてやれない。俺はどこぞのゴリラほどの金はないし、どこぞのご子息ほど妙を大事にできるかと聞かれても頷けないのだから。この先、ずっと一緒に安全に居られるか、笑って居られるか、俺なんかが守ってやれるのか、保証はないのだから。
「でもね、銀さん」
「あ?」
「皮肉なことに…私の夢はあなたがいないと叶わないんです」
目を細めて微笑む妙が、どれほど綺麗に映っただろう。
「あなたは馬鹿だから、私を幸せにできないとか、きっと辛い思いをさせるだとか、そんなことを気にするでしょう。普段はダメ男のくせに」
「…」
「傍らに、いてくれたらいいの」
手をぎゅっと握られる。同時に心臓も握られたように、胸が苦しくなった。あー…すべてこの女には見えているようだ。俺の思うこと感じること全て筒抜けになっている。そうだな。いいじゃねえか、いっそ、止まれないなら2人で走り出せば。いいじゃねえか、好きな場所へ行けば。
「お前を置いてどこにも行きゃあしねえよ」
握っていた手を離して、じっと見つめる。なんて事ない普通の手のひらも、お前が握るだけで、可能性を秘めている気がする。
窓を開けると、目が痛いほどの青い空が広がっている。綺麗だと、思った。


120407/手のひらのUniverse