Memo




色々



 たとえば、もし、とくだらないことを考える。


【あなたがいなかった世界】


 囲まれています、と誰かが言う。

 近藤さんが何かを悟ったように言う。

「――――。新撰組を頼んだぞ、トシ」

 何かを最初の方に言い、最後の言葉がずん、と体を押しつぶすような重さで俺を押さえつける。かき消される世界の音。
 目の端で慌ただしく動いている奴ら。
 近藤さんが、俺の肩を叩く。

「待ってくれ……」
「行け」

 時期ではないのに桜が舞う。

「土方さん、何やってるんですか」

 俺の腕を引っ張る。
 やめろ、やめてくれ。

「トシ、行け」
「嫌だ、あんたをおいていけない! 新選組の頭はあんただ!!」
「行きますよ、トシさん!!」

 引きずるようにして誰かが二人がかりで俺のことを近藤さんから引き剥がす。

「俺が! 残るから!!」

 そう叫んでも近藤さんがにこりと笑って俺の頭を撫でた。

「生きろ、トシ」


 ■□■


「なあ、国広」
「なぁに、兼さん」
「あの人は、立場は違えどトシさんみたいに残されたのか?」

 ほろりと、和泉守が涙を流す。
 声を殺して走り、逃走している土方をあるべき場所で死なすために、和泉守たちは歴史修正主義者と戦う。

「そうだね」
「本能寺はどう見ても負け戦だった」

 高練度の和泉守と堀川だけで、幕末の歴史を巡り、遡行軍と戦う。本来は厚樫山や、その他周辺の歴史を主に回っているが、どうしてだか堀川が幕末に行こうと言った。

「僕らがさ、助けちゃわない?」

 堀川が最後の遡行軍の短刀を薙ぎ、和泉守を見る。

「国広」
「なあに、兼さん」
「思ってもないことを言うな、悪かった」

 クスクスと堀川が笑い、和泉守の背中を叩いた。

「主が間違えた時、正すのは僕らだ。そこを忘れちゃいけないよ、兼さん」
「国広は、ついて行かないのか?」
「最後まで僕は、歴史修正主義者討伐部隊の堀川国広だもん」

 こん、と堀川は和泉守の胸を叩いた。

「僕らは、誉れ高いあの人の刀剣だ。間違えちゃいけない。……兼さん若いからね、間違えちゃってもしょうがないよ」

 ニッコリと笑って、堀川は和泉守から離れる。
 走り去る土方の背中を見ながら、和泉守は前へと歩く。

「さー、帰るか! おれたちの主が待ってる!」

「堀川国広……? 和泉守兼定……?」

 そう呼ばれて堀川と和泉守が振り返る。そこには振り返った土方がいて、怪訝そうに眉を顰めている。

「なわけねーよな……」

 そう言いながら土方は走り出す。腰の刀に手を添えながら。

「……」
「……」
「……帰ろうぜ、国広」
「そうだね」


2016/01/29 17:26
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