※※第343話:Make Love(&Impatience).208








 差し出されたノートを手にした薔はソファに腰掛けると、ナナにとってはとんでもなくお得なことを口にした。

 「言っちまったもんは仕方ねぇしな、再現してみるか。」

 と。
 ほんとうは乗り気ではないのか、ほんとうは何か企んでいるのか、悟られないよう落ち着き払っている。




 「ええええええええっ!?」
 ナナは喜び勇んだあまり、びっくり仰天した。
 仰け反りそうになった上、声が裏返る。

 「再現してくださるんですか!?」
 「俺がこうなったらどんだけ気色悪りぃか、おまえに見せつけてやる。」
 「それは絶対にあり得ないです!ばちが当たりますよ!?」
 「……俺はいちおう被害者だぞ?」
 ナナが昂れば昂るほど、薔は冷静になっていった。
 彼の言う通り、むしろ彼は一番の被害者と言っても過言ではなかった。
 その、被害者とも言える彼が自ら再現を提案してくれるとは、ナナには狂喜なことしかない。

 だからむしろ、怪しんで掛かったほうがいいのかもしれないが、ヒロインはどこまでも純粋だった。
 これだけ喜んでいたなら、無理もない。




 「よし、ナナ、」
 「何でございましょう!?」
 ぱらっとノートを捲ってみただけで悪寒がした薔は、堂々と彼女に指示を出した。

 「おまえは夕月さん役な?」

 夕月にはさすがに申し訳ない事態でもあるが、登場人物(というか攻め)が夕月なので致し方ない。


 「無理です!」
 ナナは即答した、夕月の役なんて自分にはあまりにも荷が重すぎた。

 「雰囲気だけでもいいから、とにかくやれ。」
 「無理ったら無理です!だって夕月さんですよ!?」
 「俺の言う事が聞けねぇのか?」
 だんだん薔は厳格になり、ナナは畏縮する。
 やり始める前からいつも通りとなっている。

 「だって、だって夕月さんは、」
 ナナはもどかしくなって、ずばり言うことにした。
 務めるのは無理だと思う、最大の理由を。

 「男性ではないですか!」

 彼を諭したいのだと思われるが、そもそもこけしちゃん作品はBLなので当たり前だし今更ながらの内容である。




 「……それはむしろ俺が一番よく知ってる。」
 薔は呆れているものの、当たり前すぎて彼女は可愛かった。
 ムラムラしてきて押し倒したくもなるけれど、そこは慎重に我慢する。
 「夕月さんみたいな声も出せないですし……」
 控えめに告げたナナは自分がハスキーボイスでないことで気後れし、やるからには忠実に再現したいようだった。
 雰囲気だけでもいいと、せっかく言われたのに。

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