※※第332話:Make Love(&Canoodle).201
「一樹ん……死んだんじゃなかったの?」
ホラー映画大会の約束をしてあったこともあり、念のため綾瀬のアパートを訪れた萌はピンポン一回目ですんなりドアを開けられ面食らった。
てっきり死んだと思っていたので(切り替えが早いのか意外にひどいのかなぜLINEしなかったのか)、ホラー映画大会が未開催で浮かばれなかったのかとはじめは思ってしまった。
「死んでないよ、萌ぴょん。あのときはほんとにごめん……」
頭を下げて謝った綾瀬はばつが悪そうに、何があったのかを簡単に説明することにした。
ちなみにオススメのホラー映画はもうばっちり、ネット回線で観られるように準備してある。
「兄さんが家に来てたから、危なくて萌ぴょんには会わせられなくて……」
思い出しげんなりをしている綾瀬は忌々しい兄のことを考え、ますますげんなりした。
その後、インスタグラムは特に何も蹂躙されていない。
「やっぱり犯人はお兄さんだったんだ!一樹んのお兄さんは、殺人鬼のサイコパスなんだね!」
「いや、あの、僕殺されてないし……兄さんはさすがにサイコパスでは、ない……」
怒りが心頭に発した萌は勝手に綾瀬兄をサイコパスと決めつけ、今までいくら兄が苦手でもサイコパスだと感じたことは一度もない綾瀬は戸惑う。
ドMかアホだとは思うけれど、お兄ちゃんはサイコパスではないよ。
「もう一樹んは、お兄さんに会っちゃダメ!サイコパスだから!」
「う、うん、それはもちろん心掛けてて……兄さんはさすがにサイコパスじゃないんだけど……」
綾瀬を心配する萌は鬼の形相で迫り、早くもホラーを味わえている綾瀬はこんなにも親身になってもらえてだんだん嬉しくなってきた。
ひょっとすると萌の言う通り兄はサイコパスなのではないかという、突飛な疑惑もつられて浮上する。
「でも良かった!一樹んが生きてて……!」
ふと、えもいわれぬ安堵をした萌は涙ぐみ、深海魚みたいな色合いのタオルハンカチを取り出すと涙を拭った。
「ありがとう!萌ぴょん!」
同じく涙ぐんだ綾瀬はほんとうに友達としての感覚で、萌に抱きついた。
女子がキャッキャしているテンションで行っていいのだと、彼は思っていた。
「ぎゃあああああああ…!」
「ひぇええええええ!」
抱きついたとたんに萌はお化けに出くわした瞬間のごとく悲鳴を上げ、怯えすぎて離れた綾瀬も悲鳴を上げる。
ホラー映画が上映されていないうちから、ホラー映画をふたりして鑑賞しているかのような雰囲気になっていた。
ホラーとは明らかに異なる点は、萌の顔が真っ赤ということか。
生きてて良かったと言われた直後に心臓への相当な衝撃を食らい、綾瀬は生きた心地があまりしなかった。
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