※※第329話:Make Love(&Sex aid).44
綾瀬はもしかしたら何らかの事件に巻き込まれたのかもしれないと思った萌は、メッセージを送られた時間はかなり遅かったのだが初めてこっそり家を抜け出して、綾瀬のアパートへ向かった。
自分が非行少女へと変貌してしまったような気分がしてその新鮮さにちょっとぞくぞくしていたものの、今は綾瀬のことが第一である。
彼の無事をひたすら願いながら、初めての夜遊び?に萌はなんだかロマンスすら感じていた。
でもやっぱり一番に大事なのは、綾瀬の無事だった、初めてのシチュエーションに昂っている部分もあるがロマンスを追求するのであればやはり、綾瀬の無事を一心に願っていてもらわないと困る。
あと萌はおまわりさんに頼るという最も適切であるかもしれない方法は思いつかなかったため、110番はせずにアパートへと向かった。
おそらく、夜道を走るパジャマ姿の萌こそが緊急事態を要していそうに見える場面であり、かつ最強に怖い場面でもあった。
※ここぞというときの110番を忘れておりますがこの物語のジャンルはホラーではありません。
「一樹ん、大丈夫!?」
辿り着いたアパートで、チャイムを連打する。
ものすごい高速で連打したため、ピンポンが鳴りっぱなしでこれもなかなかのホラーだった。
けれど、いくら鳴らしても、萌の呼び掛けに綾瀬が応えることはなかった。
部屋の中ではチャイムの音が鳴り響いているばかりで、物音がしたとしても確実に掻き消されている。
「……ほんとに殺されちゃったの?一樹ん……」
ふと、チャイム連打をようやく止めた萌はぽつりと呟いた。
そう思うならなおのこと110番をすべきなのだが、なぜだかしないのがホラーチックというものである。
ウルウルと瞳を潤ませた萌はスマホを取り出し、綾瀬と共に撮った写真を眺めてみた。
夜中に、アパートの部屋の前で薄明かりにぼんやりと照らし出されているパジャマ姿の少女とか、どれだけホラーに持っていきたがるんだ。
楽しそうな綾瀬と自分が一緒に写っている写真を見ていたら、萌の胸は痛いほどに締め付けられた。
しかしながらここまで来てもまだ、己の恋心を自覚できていない。
そもそも、己の恋心を自覚できる余裕があるのなら、真っ先に110番をしていただろう。
「一樹んのお兄さんが犯人だ……そうに違いない……」
ジャンルをミステリーにまで飛躍させたいのか、綾瀬を殺害した犯人は綾瀬兄だという確信を持った萌は、いずれ学校にやってくる綾瀬兄に対して、
――復讐をしてやることにした。
綾瀬のために決意を固め、蛭の生息地を検索しながら萌はフラフラと家に帰っていった。
[ 302/536 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る