※※第326話:Make Love(&Especial).197
綾瀬と萌は、綾瀬のアパートで二人して映画鑑賞ができるまでに仲良くなっていた。
萌はずっとドキドキしっぱなしでたまに奇声を上げたりしているが、ファンシーなものたちやホラーチックなものたちと触れあっているときのドキドキと似ていたため、これはもしかしたら恋かもしれないとは微塵も思っていなかった。
綾瀬の雰囲気が可愛らしいせいでファンシーなものとして見ているのだと、今はまだそう思い込んでいた。
あくまでも友達として、ふたりきりで過ごしている。
綾瀬の部屋には手作りのクッションやバーバリウムなどのインテリアが多く、男の子の部屋とはあまり思えないムードを醸し出している。
しかしながら、遮光カーテンが引かれた暗い部屋で鑑賞しているのはゾンビ映画だった。
やはりゾンビのおかげで出会えたこともあり、綾瀬と萌はゾンビが大好きなようだ。
萌はもしかしたらこのドキドキは、ゾンビが味わわせているものなのではないかとも思っている、こんなふうにゾンビにドキドキするのは初めてだったけれど。
「あんまり怖くないね?萌ぴょん。ゾンビたちお洒落だし。」
「ひえっ…!そうだね、一樹ん!」
綾瀬はほとんど怖がっておらず、萌もほとんど怖がっていなかったが上げる奇声はゾンビ映画に似つかわしいものとなっていた。
お洒落だと言われているゾンビたちは揃って、スーツを着ている(兄へのコンプレックスでスーツイコールお洒落なのだろうか)。
「でも、良かったよ、萌ぴょんがちょうど暇で。僕、今日は一人でいたらずっとネガティブになっちゃってそうだったから……」
ぽわんと笑った綾瀬は笑顔とは裏腹に、リモコンを壊れるくらい強く握りしめている。
ちなみに、真依と特に休日を合わせようとしなくなった綾瀬は、今日はお休みだった。
先日の遊園地へは、仮病を使って仕事を休んだ上で赴いている。
「何か嫌なことでもあったの?一樹ん。」
ゾンビそっちのけで、萌は綾瀬を心配した。
自分も時々そういうふうにリモコンを握りしめることがあるため、嫌なことがあったのだとはだいたい見当がついた。
「うん……昨日ね、兄さんに呼び出されて会ってきたから……」
「そうなんだ、一樹んはお兄さんのことすっごく苦手だもんね……」
ギャーとかウォーといったホラーな声をまるでBGMにして、ふたりは神妙な会話を交わしている。
「じつはね、萌ぴょんにだけは話すけど……」
「うん、」
俯き加減に、笑いながら、綾瀬は萌になら何でも共感してもらえそうな気持ちになっていた。
だからこそ、彼女にだけは兄を敬遠している理由を打ち明けることができた。
「兄さんと結婚した人が、僕の初恋の人なんだよね……」
と。
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