※※第318話:Make Love(&Desert).193
「薔っ、わたしが吹き矢で熊を捕まえようとしたときのお話、聞かれますか?」
身を乗り出したナナは瞳を輝かせながら、彼の反応を窺った。
昨日はエッチをしまくった後に、きちんと、そのエピソードを聞かせて差し上げた。
「昨日さんざん聞いたろ。」
彼女の宿題の答え合わせという名の解読をしていた薔はふとノートから顔を上げ、若干ご機嫌ななめで返す。
夏休みの宿題も間違いがあまりないよう気を配ってくれている彼は、答え合わせという名の解読を邪魔されてご機嫌ななめになっているのかと思いきや、じつはそうではなかった。
「もう一回聞きたくないんですか?」
「それよりおまえ、ここの解答……」
ナナはしつこくしているようでいて、ちょっとした優位な立場にいた。
ノートを指差そうとした薔の隣、お構いなしに話を続けてみる。
「わたしのは吹き矢じゃなくて、笛だったんです!」
と。
ナナ母は自分のはれっきとした吹き矢を選んだが、娘には吹き矢だと言って立派な笛を持たせた。
「……おい、やめろって……」
薔は堪えきれずに、笑いだした。
考えただけでナナが可愛すぎて、彼のなかでは次の日にまで尾を引くほどのツボだったようだ。
(あああああ!可愛いいいっ!)
ナナは珍しく何度か彼をからかい、堪えきれずに笑いだす姿を拝ませてもらっていた。
こんなことならもっと早くに、聞かせてみればよかった。
「あのですね、ピューッて音がしたんですよ!?ピューッて!」
「それも聞いた……」
笛の音色まで説明をしてくるため、ますます面白くなった薔はまた笑う。
つまりナナは結局、手にしていたのが笛だったので熊を捕まえることはできなかった(その代わりナナ母が仕留めた)。
そもそもなぜ熊を捕まえようとしたのかというと、血を吸うため……ではなく、どっかの村人を怯えさせていたので眠らせて森に還すためであった。
ヴァンパイアの香牙があれば熊だっていちころで、吹き矢とか特に必要なかったのだがスリリングを求めたナナ母がわざわざ吹き矢を用いたというだけの話だった。
でもこんなふうに薔を笑わせる伝説となったのなら、なんともありがたい話だ。
「つうか、笛吹いただけのおまえが何でダーツやろうと思ったんだよ……」
「それはわたしにもよくわかりません!」
彼は未だに笑いながら、ごもっともなことを突っ込んだ(※ごもっともなことを、だよ)。
ダーツへの意欲についてはよくわからず、ナナはひたすら彼をからかえる状況を楽しんでいる。
罪悪感がないわけでもないが、楽しいのでなかなかやめられない。
[ 160/536 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る