※※第274話:Make Love(&Sex aid).32
夏休みはまだまだ始まったばかり、それぞれに、愛は深まるかもしれない。
もしかしたら新しい愛が、芽生えることもあるのかもしれない。
「はい、足はもうだいぶ、よくなりました……ジムもきちんと休んでおります、はい……」
スマホ(←りんごのほう)で話しながら、如月はペコペコと頭を下げていた。
ありがちな光景ですが、電話越しにいくら頭を下げても相手には見えていないという。
『お前そのぶんだと、ずっと暇してんだろ?』
とっくに日本を発っている夕月は、呆れたように聞き返し、
「暇というほどのものでは……ずっと空を眺めたり、ずっと夜空を眺めたりしておりますが……」
結果的に怪我が原因ともなりこんなに長く休みを取ってしまった如月は、恐縮のあまりマッチョが猫背になっている。
ジムを休んでいようとも、まだまだマッチョには変わりない。
『それを暇してるっつうんだろうが。』
まるで電話の向こう側から、如月の縮こまっている様子が見えているかのようにくっくっと笑うと、
『如月、』
「は、はい……」
夕月は持ち前のハスキーヴォイスで、きっぱりと言い切った。
『お前、女々しいな。』
ガ――――――ンッ!
ショックのあまり如月は、スマホ(←りんごのほう)を落っことすところだった。
ジムにコツコツと通い、プロテインもせっせと摂取したりしてストイックに肉体を鍛え上げてきた如月が、この世で最も言われたくない言葉は【女々しい】だった。
しかも言われた相手が、神のように尊敬している主の夕月だし。
【女々しい】の次あたりに【貧弱】がくるのだけど、たぶん貧弱について言われる機会はないと思う。
『どうせ、電話かけようかかけまいかでうじうじしてたんだろ?』
「が、鎧さまは、さすがで……」
夕月は思ったままのことを楽しげに口にして、感心する如月は素直に認める形となった。
実際のところ如月は、自分に告白をしてきたあの女性に電話をしてみるべきか否か、でも最初はメールにしておこうかな……なんてことを考えすぎて未だに何もできずにいた。
足を怪我しているのだから看病をお願いすることでまずは話題作りができそうなのに、マッチョが弱っている姿を女性に見せるのは気が引ける。
夕月はそこまで見越した上で、如月の今の状態は【女々しい】と言っていた。
『ま、大事にしろよ?』
素直さをきちんと引き出せた夕月は、彼女との進展を特に急かすこともなく電話を切った。
怪我の状態を気にして電話をかけたついでに、少しからかってみただけだった。
「ありがとうございます、鎧さま!」
如月が感動の声を上げたとき微かに聞こえた夕月の失笑が、優雅な響きと共に耳に残った。
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