※※第272話:Make Love(&Summer festival).166
(な…っ、何もされずに……終わったっ…!)
ナナは姿見の前で、感心しているのか残念がっているのかよくわからない気持ちでいっぱいになり、もじもじしていた。
夏休み前には祝日を挟み、なぜ祝日から休みにしなかったんだと思うところではあるが一日だけ登校日が残されている。
7月の祝日といえばハッピマンデーのあの日ですが、この物語上ではそうではないということで(およそ一年前がもう特にハッピマンデーではなかったので)。
「すげえ可愛いよ、ナナ…」
鏡を見ている彼女を見ながら、薔はアップスタイルにしてある髪型を崩さないようそっとあたまをぽんぽんする。
恥ずかしくて俯き加減のナナは学校から帰ってくると、浴衣を着せられていた。
彼のことだからエッチな悪戯をされるだろうと思っていたら、意外すぎることにきちんと着付けをされた。
まあ、下着姿だの何だのの羞恥は否応なしに曝されましたが。
「あ、ありがとうございます……」
ナナが鏡を見やり小さく礼を言うと、薔も視線に気づき鏡を見つめて微笑み返した。
このなんとも甘いムードのなかふたりはこれから、夏祭りデートに向かうところだった。
強引にモデルにされたときにはあーれー!のくだりがきましたけれど(彼氏だけど)、浴衣の場合にはそういうのがなかった。
珍しすぎることがあったもんだ。
つまり、明日は祝日なために、今夜は夏祭りです!
「手も可愛いな?」
「えっ?手には何にも着てませんよ?」
「だから可愛いんだよ。」
くすくすと笑う薔は彼女の右手を取り、さりげなくヴァンパイアの能力を抑えるために嵌めている指輪を外した。
雰囲気だけで腰に力が上手く入らなくなりそうなナナは、指輪が外されたことにはまったく気づけていない。
手がなんだか気持ちいいとは思っている。
「あれ?」
その気持ちよさもあり、さすがのナナも今度はすぐに気づけた。
「えええええ!?なんか指輪が変わっちゃったんですけど!」
何の飾り気もなかった指輪のはずが、シルバーにピンクサファイアが可憐に煌めく指輪に変身していた。
意味深なカーブを描いているのもまた、お洒落な指輪だった。
びっくり仰天のナナはまじまじと、自分の手を眺めている。
「ずっと気に入らなかったんだよな、おまえにはもうあの指輪は必要ねえ。」
薔は後ろから片手で腰を抱き寄せて、彼女のゆびに嵌めた指輪へと上手くくっつくよう、もうひとつの指輪を重ねて見せた。
ジュエリーが嵌め込まれてはいないシンプルなシルバーリングだったが、やはりカーブを描いており、ふたつを合わせると見事なハートマークになった。
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