※※第233話:Make Love(&Bewitchment).138















 …――――――奪い去ればいい、息の根ごと、なにもかも。
















 「……屡薇くんさ、当日の朝に誘うのはほんと止めてって言ってるじゃん。」
 呟いた真依は呆れつつも、座り心地のよいソファに座っている。
 空は生憎の雨模様で、今日の夕方から何日間か雨の予報だったが、淫雨に濡れた夜の景色もなかなかムードあるものかもしれない。

 「ほんとはラブホにしたかったんだけど、予約取れなかった。」
 スタジオ近くのシティホテルの予約をちゃっかり取ってあった屡薇は、彼女の呟きは聞こえなかったかのように笑いながらバスルームの雰囲気をチェックしていた。
 赤裸々な返しに、真依は思わず彼が用意してくれた紅茶を吹き出しそうになる。


 「あ、でもラブホだと途中抜けたりできねぇから、困るか。」
 リハーサルの合間を縫って抜けてきている屡薇は、シティホテルにしたメリットに今さら気づいたようで、

 「コンドームはちゃんといくつも用意してきたから、安心してね、真依さん!」

 自分で煎れた紅茶を手に満面の笑みを彼女へと向けてきた。



 「安心なんてできるか!相変わらずムードないな、もうっ!」
 真っ赤になって憤慨して見せる真依は、ガシャンと音を立ててティーカップをソーサーの上に置く。
 「だって、あんときはエッチできなかったし、俺はずっと我慢してたの。」
 紅茶を一口飲んだ屡薇は、彼女の隣に並んで座る。
 ソファの軋みに心臓が跳ねた真依は、ここぞとばかりに切り出した。

 「しっ、新曲も、いい歌だった!発売日が楽しみ!」

 と。




 「俺が聞きてぇのはそういう感想じゃねぇんだけど、」
 溜め息混じりにカップをソーサーの上へ置いた屡薇は、やや凹んだように聞き返した。

 「もしかして……俺の歌が下手すぎて、引いた……?」









 その姿が子犬のように見えた真依は、「かわいい!」とか思いながらもそれについては決して言ってはあげずに、

 「いや、じつはめちゃくちゃ上手くて、びっくりしたよ……上手いから余計に恥ずかしかったよっ…!」

 屡薇から視線を反らし、素直に言葉にした。
 生まれてから今まで嬉しいことなんてたくさんあった気がするが、他を思い出せなくなるくらいに彼からのプレゼントは嬉しかった。
 がしかし、普通にソロとしてもやっていけるくらいのレベルに、一曲聴き終えるにはかなりの時間を要した(途中で停止して、再生、を繰り返したため)。


 「なんだ、それなら良かった。」
 安心したような笑顔となった屡薇は、また一口紅茶を飲む。
 (ど、どうしよう!?逃げ出したい!)
 あまりの緊張と恥ずかしさに、真依は宿泊することなくこの場から逃げ出したい衝動に駆られていた。

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