※※第266話:Make Love(&Sex aid).30















 一瞬、本気で咬まれたのかと思った。
 けれど彼は本気で咬んだわけではなく、血液は僅かながらにも滴り落ちたりはしなかった。

 そしてナナは本能で感じた、きっと、咬まれていたほうがもっと痛みは少なかっただろうと。
 あまりにも切ない痛みが躰の芯を走り、どうやって息をすればいいのかわからなくなる。


 薔がくちびるを離すと、手首はほんのり赤く染まり、おかしいくらいに熱くなった。
 真っ赤に染めたい衝動を必死に抑えて、今度は手首に優しくくちづける。


 「…――――――残酷なこと訊いちまったな…」
 くちづけとおなじように薔はただ優しく笑って、激しく彼女の奥を突いていた。
 広いベッドがリズムを打って軋み、濡れたシーツの皺が揺らめく。

 「この血液のせいで、おまえに咬みつくことはできねぇけど、」
 いったん素早く抜いた彼は、彼女をベッドへ強引に仰向けにさせた。
 広げて持ち上げられた脚には、甘噛みがされる。

 「あっ…あっんっ、あ…っ、」
 ぞくぞくして魅入るナナは、欲しがりすぎてヴァギナをしきりにひくひくさせている。
 ふるわせるほどに中からは、攪拌された白濁液が溢れだしてくる。


 「この血液のおかげで……俺はいつかおまえを護ることができる、」
 再び深く挿入した薔はすぐに動きだしながら、吐息混じりに耳もと囁いた。

 「……ごめんな?ナナ……」









 ナナはこのとき、意識が飛びかけていることもあり、彼の言葉の意味がちっともわかっていなかった。
 護ってくれると言っておきながら、どうしてそんなに悲しげにごめんと口にするのか。
 真意がわからないのは当然だった、彼女は竜紀をヴァンパイアにしたのは自分であることを思い出せない上に、竜紀がナナをこの世から抹消することのできる唯一の存在だと知ることができない。

 薔はすべてで、彼女を護りたかった。
 ヴァンパイアにとっては絶対なタブーとされている、F・B・Dを持つ人間を殺させることが、ナナにとっての脅威をこの世から消し去ることができるたった一つの方法だった。
 彼はその程度の覚悟はとうにできていた、覚悟は揺らがないけれど、彼女への想いが想像を絶する苦しみを生み出し「ほんとうはずっと一緒にいたい」という気持ちが抑えられなくなる。
 不安定になる。

 歯車はもはや、コントロールを失いかけていた。




 「愛してるよ……おまえのせいで息もできない……」
 腰をなめらかに速く振り、薔は耳や首筋へと幾度となくキスをしていった。
 「あ…っんっ、あ…あっあっ、」
 彼を感じすぎて、ナナはオーガズムをまた掴もうとしている。
 ラブホのベッドの天蓋が揺れたように視界の隅が捉え、ふたりは見つめあった。

 薔は力強く微笑みかけて、ナナはそれをこの世で最も儚いもののように瞳に映していた。
 実際に、彼は美しく儚すぎる、そう感じるほどに切なさが止まらなかった。

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