※※第264話:Make Love(&Sensational).160
「ふう……良かったです、ここが開くようになっていました……」
もうすぐカップルコンテストが始まるという時間のおよそ5分前に、ナナはベンガル虎の口の部分がファスナーになっていることを発見した。
正直、暑いし(この物語は7月の中旬)、息苦しいしで、何とかならないものかと薄々思ってはいた。
しかしながらせっかくの彼氏が選んでくれた着ぐるみなので堪えようとしていたところを、運よく開閉ができるファスナーというものを発見したのだ。
ベンガル虎の可愛らしいんだけど勇ましくもある口が開いて、ちょっと汗ばんでいる彼女の顔が覗いている。
よって否応なしに、ヴァンパイア姿で隣に並び待機していた薔の雰囲気は、そら険しくなった。
周りは直ちに戦慄を覚えた。
「おい、何やってんだよ、ちゃんと隠してろ。」
「おわあ!?びっくりしました、このほうがはっきりと見えますね、かっこよすぎます!噛まれたいです!」
「あ?」
ベンガル虎の口元をいきなり覗き込まれたナナは真っ赤になると同時にびっくり仰天して、本物のヴァンパイアなのにあまりヴァンパイアらしからぬことをばか正直に叫んだ。
周りには仮装それすなわちコスプレをしたカップルたちが共に待機していても、そこは完全なるふたりっきりワールドとなる。
「でも、さっきより暑くなってきましたよ…!?これは絶対に薔のせいですよね!?」
「まあ、俺のせいだな。つうわけでおまえの可愛い顔は隠すぞ?」
「やめてくださいーっ!見えなくなりますーっ!」
「……はっきりとじゃねぇが見えてはいたんだよな?」
ナナは今度は彼の熱さに息を荒らげ、容赦なくファスナーを閉めようとした薔だが興奮する彼女が前のめりになっているためできずにいた。
この状態でファスナーを閉めれば、確実に顔を挟むからだ。
ほぼ空気と化している周りのカップルたちは、戦慄すらも忘れてなんだか和んだ。
超絶美形ヴァンパイアが恋人であるベンガル虎にいささか手を焼く光景って、そうそう見られるものではない。
「おまえ……いい加減にしろよ?俺がこいつを選んだ意味がなくなるじゃねぇか。」
「おお怒ってらっしゃるんですか!?もしや、噛んでくださるんですか!?」
「………………。」
何がなんでもファスナーを閉めようとする薔の雰囲気の険しさに、ナナは今にも咬まれてしまいそうでますます興奮した。
確かに咬まれたくはある上に三咲さんやっぱり最強かも、とほとんどのカップルたちはそう思った。
ナナのほうこそが本物のヴァンパイアだと知っているため笑いを堪えている羚亜と愛羅は、彼氏のほうがチャイナ服で女装、彼女のほうが学ランで男装となっている。
[ 485/537 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る