※※第263話:Make Love(&Greedy).159
どこまでも悲しいような気さえする、懐かしい夢を見た。
記憶のなかにはないはずなのに、とても懐かしい夢。
二本の木に、別々に、親犬と仔犬が繋がれていた。
仔犬は泣いているみたいに、届きそうで届かない母へと向かって鳴き声を上げている。
ナナはただ純粋に、その仔犬を自由にさせて、母親に寄り添わせてあげようと思った。
週間天気予報では雨のはずが、空は恐ろしいくらいに晴れ渡っており、雨が降りだす気配はこれっぽっちもない。
「困ったな、雨が降ってくれないと……」と、誰かが呟いた気がした。
仔犬はナナを見上げて、無邪気に尻尾を振っている、ゴールデンレトリーバーの子だった。
離れているところから、耳の奥まですっとブランコの揺れる音が聞こえてきた。
優しい音色はまるで、これから起こる悲劇の、警鐘を鳴らしているかのようだった。
「……っ……」
眠りながら、ナナは泣いていた。
今日は学園祭も最終日で、正直なところ、午後のカップルコンテストに間に合うように登校をしてもいいくらいの日だった。
そんな日の、今はまだ朝方の5時近くである。
「…――――――ナナ?」
彼女の微かな震えを感じ取り目を覚ました薔は、穏やかな手つきであたまを撫でた。
ナナはそれに応えるかのように、ぎゅむっと強く抱きついていた。
「起こしてほしいのか?抱きしめててほしいのか?……どっちなんだよ……」
声はまだ寝起きの甘ったるさを含んでいても、ばっちりムラッときちゃった薔は彼女を抱き返す。
そしてゆびをそうっと頬に這わせて、涙を拭った。
「……ん…?」
ナナの夢は彼の腕のなかに思い切り顔をうずめた辺りから、とたんになんだか薔薇色となった。
仮面を外した大好きすぎる最愛の彼氏が、まだ免許を取得できる年齢に達していないにも拘わらずとんでもなく高級そうな車(ナナに車種はわからない)で彼女を連れ去ってくれる夢だった。
走り抜けてゆく街道も、むしろアダルティーなくらいの薔薇色に染まっている。
「ぎゃわあっ…!?」
驚いたナナは、目を覚ました。
目を覚ましてすぐに、ときめき全開となりましたけれど。
「怖い夢でも見てたのか?」
甘い声を心配そうに掛けた薔は、両手で彼女の涙を拭う。
「あっ……朝から何をやってっ、らっしゃるんですかぁっ…!?」
「……おまえがな?」
起きてすぐに慌てふためくナナだが彼のゆびの動きが気持ちよすぎて目覚めた後にもう夢見心地となり、薔は彼女の様子が可愛すぎてからかいたくて仕方がない。
ナナは目覚めたとき、夢の内容についてはすっかり忘れ去ってしまっていた。
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