※※第257話:Make Love(&Suggestive).154
















 水曜日の朝、ナナと薔はいつもより早起きをした。
 昨夜も激しかったのだろうが、激しかったからこそ早起きもできる……こう、活力というか精力というかがあるのかもしれない。

 仲良く花子と豆のお散歩に行って、朝食(ナナはお手伝いをした程度)を済ませると、ふたりはいつもより早くに家を出た。
 この日は薔の家族の命日で、ふたりには学校へ行く前に寄らなければならない場所があったのだ。










 「薔はやっぱり、お美しすぎるのでお花が似合いますね……」
 前日に買っておいた手向けの花たちを持って歩いている彼を、ナナはうっとりと見つめ、
 「おまえのが似合うだろ。」
 思い切り腑に落ちなかった薔は花を持って歩いているのが嫌になってきた。

 「ん、」
 「えっ!?わたしが持っていくんですか!?」
 「おまえのがぜってーに似合うからな。」
 「ええええええ!?」
 なので途中から、花は半ば強制的にナナが持たされた。
 重いものならこんな展開にはならなかったと思われるが、花束はそんなに重くはないし。
 もっと花を手にしている彼氏の見目麗しい姿に魅了されていたかったナナはそうは言っても逆らえないので、渋々ながらも慎重に花たちを受け取った。


 「やっぱかわいいな。」
 「薔だってそれはそれは、この世のものとは思えないほどに可愛らしかったと言いますか、お美しかったんですが……」
 「じゃあこの世のもんじゃなかったんだろ。」
 「ええええええええ!?わたくしもんのすんごく褒めたんですけど、なんか、恐ろしいことにいいい…!」
 花を手にした彼女を見た薔はくすくすと笑って、褒め称えたつもりのナナは逆手に取られ命日にはあまり洒落にならないようなことを返されてしまった。
 しかしながら、こんなふうに笑いあいながら墓参りに出掛けられるのは全て、彼女のおかげだった。

 手向けるものをどうせなら手分けして持ちたいという気持ちも、薔は抱いたのかもしれない。




 朝日のなかでほんのりと花のにおいがしていたけれど、ナナはいつもそばにある心地よい匂いを手繰り寄せていた。

 11年前のあまりにも悲惨な出来事は決して消えてなくなりはしないが、未来はずっと悲惨なままではない。
 彼女と出逢えてからの時間が、今ではもう過去になってしまっている尊い時間たちが、そのことに気づかせてくれた。

 歩いている途中でちょっと強く手を繋ぎ返されたナナはドキッとして彼を見上げ、薔はただ彼女を見つめて優しく微笑み返した。

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