※※第246話:Make Love(&Entrance).146















 特にカポーンとかいうような添水の音もしていない、高級老舗旅館の、しっぽりを決め込む予定の寝室ではない和室のほうにて。

 「ちょっと屡薇くん、打ち上げに出なかったの!?ダメじゃん、バカじゃん!」
 一驚した真依は、思わず大声を上げてしまった。
 ツアーのファイナル日なのだから、いくらなんでも彼氏は打ち上げには参加してくるだろうと思っていたら、参加せずにまっしぐらに旅館へやって来たようだ。
 「うん、まあ……それもそうなんだけど……」
 もっとこう、まずはライブ後の興奮とか熱狂が来てほしかった屡薇は、どこか気まずそうに頷く。
 真依のほうは“あの夜以来の再会”に対する気まずさが、驚きにより一時的に吹っ飛んだ模様だ。


 「今からでも遅くないよ!参加してきなよ!」
 「ごめん……嫌だ……」
 「はあぁぁぁぁあああ!?」
 何がなんでも打ち上げに参加させようと真依は彼を急かしたが、屡薇は呟きのように却下をした。
 せっかくの打ち上げなのにと、意味がわからない彼女は憤慨している。

 「あんなにかっこいいライブをしといて、打ち上げに出ない屡薇くんはどうかしてるよ!」
 「あ、やっとライブの感想きた、良かった、かっこよかったんだ。」
 「当たり前でしょ!」
 説得させるためにさりげなくライブの感想を真依は持ち出し、気まずそうにしていた屡薇はだんだんと余裕を取り戻してきた。
 しかもこの状況はちょっとした、悪戯に使えるのではないかと閃く。




 「つうかさ、彼女にLINE既読無視されっ放しで凹んでる俺が、平気な顔して打ち上げに出られると思う?」
 今度は屡薇が若干憤慨し始め、はっ!とした真依はとたんに大人しくなり畳の上に正座をした。
 俯き加減の彼女は、どう見ても青ざめたりはしておらず赤面している。

 「う、打ち上げもちゃんとした仕事の一環なんだから、公私混同はよくないぞ……」
 「俺ね、最近気づいたんだけど公私混同しちまう男なんだわ。」
 「堂々と言わないでよ、もう……」
 「え〜、ちゃんと気づけた俺って逆に偉くね?」
 真依は小さな声でたしなめるものの、開き直った屡薇は胡座をかいたままきっぱりと返した。

 「やっぱりライブかっこよくなかった……屡薇くんだけ……」
 恥ずかしくて堪らずに、言い返す言葉が思いつかなくなってきた真依は先ほどの褒め言葉を否定するという悪あがきに出た。
 「そのかっこよくなかった彼氏の前でもじもじしてる真依さんはすっげえ可愛いけど、本心が丸見えで。」
 逆手に取った屡薇は彼女を、褒めに入る。
 真依はますますもじもじしてしまい、彼は内心かなり面白がっている。

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