※※第238話:Make Love(&Mischief).141
いよいよテスト期間も学園祭も迫ってきた、火曜日の夜のこと。
「ううーん、夕月さんはどうして、あんなにもタイミングよく現れてくださったのでしょうか?」
ナナは数学の問題にではなく、昨日の夕月のあまりにも奇遇な登場に頭を悩ませていた。
お勉強中なため、本来なら数学の問題に頭を悩ませるべきなのだけど、難問を前に脳内は現実逃避を始めているのかもしれない。
「まあ、何でだろうな?」
彼女のおかげですっかり熱も下がった薔は、特に気にしている様子もなく返してきた。
そもそも、日本に帰ってきているからには何かしらの事情があるのだとしか思えないのだが、無闇に気にする必要はないと彼は考えていた。
それよりも薔には今、さりげなく気になって仕方ないことがあった。
「薔は気にはならな」
「ちょっといいか?」
「えっ…?」
改めて尋ねようとしたナナの肘をテーブルのうえからいったん持ち上げた彼は、勉強道具のなかに紛れ込んでいるあきらかに彼女のものではない一冊のノートを手に取った。
油断大敵とかいうレベルの問題ではなく、もっと注意を払うべきだとしか言い様がないナナは、口をあんぐりと開けてどう見ても慌てふためいた。
「これは俺が中身を見ても大丈夫なやつか?」
「大丈夫なやつではないですーっ!」
薔はノートをしかと奪い取り、今朝こけしちゃんに貸してもらったそのノートを返してもらおうとばか正直に答えたナナは必死になって両手を伸ばした。
「なら読んでやる。」
「だっ、ダメです!今回は夕月さんが、薔のストーカーになって登場してらっしゃいますのでーっ!」
「……あ?」
彼女の反応によりお構いなしに彼はノートを開こうとしたところ、昨日の今日なためになかなか洒落にならない内容だった。
夕月は決して昨日、ストーカーをしていたわけではないために、余計に洒落にならない。
「夕月さんに何させてんだよ……」
「えっとですね、まずは薔を気絶させて車で連れ去って手錠を」
「説明はすんな。」
呆れ返っている薔の呟きに、ナナはますますばか正直となり、途中できっぱりと遮られた。
夕月に何をさせているのか、最も責められるべきは無論こけし姉さんですが。
わんこたちはいつものラブラブだと、安心して寄り添いうとうとしている。
「おまえな…」
まったく懲りげがない彼女の前で、雰囲気が厳しくなった薔はノートを片手に問い詰めてきた。
「いつになったら桜葉に、これを止めさせられんだ?」
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