※※第171話:Make Love(&Pain).98








 ――――――――…


 目の前に、真っ暗な闇が広がっていた。

 その、今にも呑まれそうな闇の手前に、彼女がいた。


 手を伸ばす。
 ナナは、ちゃんとそこに薔がいることに気づいていた。






 そのときふと、ふたりのあいだを、白い薔薇の花びらがひらひらと舞っていったのだ。
 鮮やかな白は、美しいはずなのに、情緒をおくびにも出さない無感情な舞いを見せていた。


 闇の中に舞うそれらの花びらが、選ばれ意味する花言葉は、おそらくただひとつ、

 …――――“私はあなたにふさわしい”――…












 ドクンッ――――――…!

 自分の鼓動で、悪夢から目が覚めた気がした。
 彼女の手を取ることは叶わなかった。

 今はまだ、真夜中だ。




 「…――――っ、は…っ、」

 隣ではぐっすりとナナが眠っているため、苦しげな呼吸を抑えるように薔は躰を起こす。

 彼女とシャワーを浴びて眠りに就いたが、全身は汗にびっしょりと濡れていた。









 「……っ、もうすぐ、“あの日”がくんのか……」

 彼は濡れた髪を、片手でかき上げると、

 「今年は…、いつも通りじゃ済まされねぇってことか…?」

 どこへだろうか、消え入りそうな言葉を浮かべたのである。








 隣で眠っているナナの寝顔を見ていると、おかしなほどに速く脈打っていた鼓動はだんだんと治まってきた。


 とても愛おしそうに、彼女のあたまを撫でようと薔は手を伸ばしたのだけど、

 「……どうしてくれようか、この躰、」

 自嘲気味に笑って、ナナには触れることなくその手を力無く落とした。

 「汚れきってんだよな……」









 そして、

 「ごめんな…?ナナ……」

 愛しきひとには、未だ届いていない、

 その言葉が意味するものとは一体何だったのだろうか?


 「おまえを…自由にしてやる……」
















  …――Please don't separate me.

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