第八話:虚無と楽園









 『…――ふたりで遠くへ逃げて、誰も俺たちを知らない場所で一緒に暮らすか?』

 それが今すぐできたなら、どんなに幸せだろう。
 本気か冗談かわからない兄の提案は、絶望的な希望となり梨由の心を蝕んだ。


 周りの誰も知ることのない血の繋がりは、濃く密やかとなり余計にふたりを離れがたくさせてくれるに違いない。
 「んっ…あっ、あ…あっんっ」
 梨由は暗闇のなかに兄と暮らすその楽園を思い描こうとした、けれど何も思い描くことはできなかった。

 チュッ…ジュプッ――…

 濡れた秘部を、音を立てて何度も舐め上げられ、蜜を吸われて、止め処ない気持ちよさで脳内は真っ白状態にされてしまっていた。
 舌の感触とそれが与える愉悦、聴覚を撫でるいやらしい音、淫らなものたちが連動して思考を麻痺させてゆく。

 「もっと焦らして欲しかった?こんなに濡らして」
 クリトリスを吸って離した武瑠は、ひくつく膣口をゆびで艶かしくなぞった。
 「……っあっっ!あ…っ」
 腰を大きく跳ねさせた梨由は達してしまう。
 ゆびは愛液を絡め取り、グチュグチュという猥りがましい水音を聞かせてくる。

 「……呆気ねぇな、でも……いい反応だ」
 吐息でも秘部に触れた武瑠は入り口からヴァギナへゆびを滑り込ませて、敏感なざらつきをなめらかに擦り上げた。

 「感じるままに乱れてく……おまえ、最高だよ」




 Gスポットに執拗な摩擦が迫り来て、イったばかりの梨由の腰はまた何度でも跳ねる。
 「あっあ…っあっ、あ…っ」
 クリトリスは親指で愛撫されて、じんじんと中も外も熱くなる一方だった。
 「そして俺はおまえを、欲しいままに穢してく……最低だ」
 自嘲気味に笑った武瑠は、ゆびを動かしながらゆっくりとラビアへ舌を這わせる。
 「あ…っっ!」
 自分のほうがよっぽど……とかすめた梨由だったが、すぐにまた達してしまい言葉にすることは叶わなかった。
 ふたりは背徳的に穢しあってゆくのに、おんなじなのに、そんなふうにどこか苦しそうに対比させられると切なすぎて息が止まりそうになる。


 「いつからかずっと、欲しかった」
 武瑠はゆびの抜き差しを速めて、蜜の音を高めた。
 全てに勝る無二の響きを持った低い声は、嘆きのようにひっそりと、それでいてしっかりと妹の耳に届いていた。

 「何で俺はおまえの、“お兄ちゃん”じゃなきゃいけねぇんだよ……」





 「あ…っもっ、ダメっ、ダ…メっ、おにい……ちゃっ、あ…っ」
 容赦のない快感が打ち付けられ、おかしくなりそうな梨由は兄の腕を手探りで掴む。
 「名前で呼べ」
 躊躇うことなく責め立てる武瑠は、不意討ちで耳もと吹き掛けた。

 「普通はお兄ちゃんとこんなことしねぇだろ?……名前で呼べよ、梨由……」

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