第五話:焼き付く咎






 「ん…っ!」
 くちびるを奪われながら、梨由は絶頂を得た。
 「……っ!」
 ほぼ同時に武瑠も射精をして、膨らんだ避妊具の中の熱を妹にひしと伝えた。
 直にそれを味わいたいと、切に願うこと自体が罪作りなのだろう。
 ゆっくりとくちびるが放されてゆきながら、抜かれていった。
 抜いてしまうとすぐに妹へと、こわくなるくらいに優しいキスを落として、武瑠は囁いた。

 「今日も気持ちよかったよ…」



 そして兄はそれ以上妹には何もせず、素早く処理を済ませるとスーツを整えた。
 呆気ない余韻だ。
 梨由は自分の着衣も兄に整えてもらったり、あたまを撫でられたり腕枕をしてもらいながら、寄り添って眠りに落ちたりすることに焦がれるくらいの憧れを抱くようになっていた。

 (これは、お遊びだから?)
 ほんとうは兄も同じ気持ちで、いてくれているのだろうか――ここにきて一気に不安は膨れあがる。
 近づけたのだから、甘えたい。
 幼い頃の甘え方とは、違う甘え方で。
 兄にも、幼い頃の甘やかし方とは違う甘やかし方で、甘やかしてほしいのに。
 苦しい、好きになればなるほど不毛だと思い知らされ、それでも好きになるしかできないから堪らなく苦しい。

 「お兄ちゃん……」
 自分は未だ着衣を整えることもせず、帰り支度を済ませた兄へと梨由は消え入りそうな声で懇願した。

 「お願い……今夜は、ずっと…そばにいて……」



 告げている途中で、無性に泣きたくなった。
 武瑠は薄暗がりのなかで、泣きそうな顔をした妹に向かって穏やかに微笑んだ。

 「梨由」

 名前を呼ぶ声も、こわいくらいに優しくて、梨由は一縷の望みを掴みかけようとした。

 ところが、

 「携帯の不在着信……きっとおまえの彼氏からだろうね」
 優しい声で続けた武瑠は妹に背を向け、部屋を出て行った。

 「おやすみ……」


 玄関のドアが閉まる音が、残酷な響きを耳に残した。
 黙って兄の出て行ったドアを見つめていた梨由は、一筋の涙を頬に伝わせた。



 アパートの階段を下りてゆく途中、武瑠は不意にくしゃりと髪を掴み、溜め息を夜風に乗せた。
 妹を、妹としてしか見ていない兄であったなら、彼はいくらでも彼女の願いを聞き入れることができた。

 落ちていきそうなほど広大な星空の下で、ひとりぼっちだった、衝動に任せて引き返し、暗い部屋の中で泣いている妹を今すぐかき抱いてしまいたかった。

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