第一話:常闇みたいな想い
「なななななっ…!?」
夜遅くに帰宅した途端、ぶるぶると震える、うら若き短大生・梨由(りゆ)。
それもそのはず。
最近になって、大学へ近いアパートに一人暮らしできるようになった梨由の狭い部屋、畳の上に敷かれた布団へ、兄とその彼女と思しき女性が、あられもない姿で寝ていたのだ。
「お兄ちゃん!なんでこんなとこにいるの!?」
梨由は、怒りの叫びをぶちまけた。
隣の部屋に筒抜けだろうが、既に嬌声や何かを目の前のふたりが響かせてしまったのだろうから、叫びの一つや二つどうってことない。
「んー?あぁ、梨由か、おかえり」
兄はおもむろに起き上がる。
「おかえりじゃないよ!何であたしの部屋に女連れ込んでんのよ!」
「お袋達帰ってきて、家じゃヤれねぇんだよ」
梨由の前、兄は乱れた髪をかき上げた。
「誰ぇ?」
割と豊満なタイプの隣の女性も、まだ眠そうな様子ではあるが目を覚ましたようだ。
「俺の妹」
とか言いながら、兄は煙草に火をつける。
「あ、そうなんだ、はじめまして、あたし武瑠(たける)の彼女してます、美智(みち)って言います」
大人びたその女性、美智は、明るく笑って自己紹介をした。
「お前、俺の彼女なの?」
「ひど〜い」
…あぁ、まただ。
梨由は思った。
(あたしはいつでも、兄に振り回されてる…)
セフレ何人いるのか、知らないけど、
振り回すのはもう、
やめてよ!!
「お兄ちゃんって、ほんっと最低!大っっ嫌い!」
頬を赤くして思いきり叫ぶと、梨由は部屋を飛び出していった。
「妹さんに随分、嫌われてるのね」
美智は笑いながら、脱ぎ捨ててあったブラジャーを手に取る。
「あぁ、それ逆」
武瑠は立ち上がり、下だけを履いた。
「は?」
美智の手が、止まる。
「迎えに行ってくる」
咥え煙草で上に何も着ず、武瑠は部屋を出ていった。
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