第三話:蝕む疑心暗鬼
「……っうう…っ」
梨由が涙を溢れさすと、武瑠は再びくちびるを奪いにきた。
動きがやや速さを増し、深くを突かれる感覚が切ない熱を持ち迫りくる。
初めての梨由には、どうしても痛かった、しかしそれは決して抗えはしない愛おしき痛みだった。
ほんとうは、決して愛してはいけなかったのだけど。
「は…っ、ん……っ」
漏れる吐息すら、奪ってほしいと願う。
ふたり合わさった場所からの、厭らしい音が聴覚を撫でてくる。
「……っ、よく締まるね…」
また少しだけくちびるを離して、汗を流す武瑠は笑い、
「ぁ……っ、おにい…ちゃっ…」
すぐにまたキスできそうな距離で、梨由は兄の濡れたシャツを掴んで引っ張る。
まるでキスをせがむかのように。
「お兄ちゃんはもうイけそうだよ……」
まずは吐息でキスをしてから、武瑠はさらにディープにくちづけてきた。
「…――っん」
やわらかく絡まる舌の動きから今は惜しむ乱れた呼吸まで、合わさってゆく。
梨由の躰を支配しているものは、ただただ、兄とひとつになれている喜び。
それだけで、達けそうだった。
「……っ!」
やがて、武瑠は射精をした。
避妊具を隔てて伝わりくる、兄の熱――――――…
それを直に感じたいと、描かずにはいられなかった。
「んっっ!」
梨由を絶頂に導いたのは、行為そのものと言うよりむしろ、抑えようと死に物狂いで押し殺し続けてきた恋の激情だったのかもしれない。
「は……っ」
慎重に抜きながら、武瑠は舌もゆっくりと抜いてくちびるを離してゆく。
細く糸を引いた唾液は、僅かに射し込む月光に艶めいた気がした。
「お兄ちゃ…っ、……好き…っ」
梨由は必死になって、兄へとしがみつく。
嘘偽りのない言葉はまだまだ溢れ出てきそうだ。
「しーっ…、そんな大きな声出しちゃダメ……」
武瑠は、淫れた躰を抱き返すと、
「梨由の気持ちは、ずっと昔からちゃあんとわかってるから…」
なだめるようにそっと、妹の背中を撫でていた。
[ 30/96 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧へ戻る]
[しおりを挟む]
戻る