第二話:密めく熱帯夜








 …――――人のふみ行うべき道には背くことができたけれど、甘い言葉と煙草の匂いに背くことはできなかった。







 草木も眠れないほどの蒸し暑い丑蜜時、圧し殺し続けてきた想いは静かに心を蹴破る。
 安物の、サイズの合わないカーテンの隙間から、月の光はほのかに部屋へと射し込んで。


 ちゅ…

 「ん……」

 梨由と武瑠はそのなかで、抱きあいキスを交わしていた。
 夢に描きすぎてリアリティにはあまりにも欠けて、しかしくちびるの感触はやわらかく時折こぼれる吐息の熱さはこの上なくリアルで。



 ふと、呼吸をしようと開いた隙に、くちびるは抉じ開けられ舌を滑り込まされ、

 「……っ、ん…っ」

 梨由はとっさに、兄のシャツをきつく掴んでいた。


 ディープキスなんて、もちろん初めての経験だ。

 くちゅ…

 あっさりと這い入った武瑠の舌は、ねっとりと、音を立てながら梨由の舌を絡める。


 もじ…

 おかしくなりそうなほどの、甘くて痛いヘンな感覚。
 自然と涙は梨由の頬を伝い落ちる。


 「はぁ……っ」

 やがていったん、舌は抜かれくちびるが離された。

[ 13/96 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧へ戻る]
[しおりを挟む]


戻る