僕は君の言の葉
病的だなんてとんでもない。
僕たちはいたって平穏さ。
人生は美しく腐蝕したお花畑のようだ。
「あ…っ、……サキ…っ……」
兄が上擦った声で、僕にしがみついた。嬉しそうに僕のあそこを咥え込んでいるから、名前を呼ぶのも精一杯だ。
最中に“あれ”が視えることは、よくある話だ。
僕はなだめるように兄のあたまを撫でて、突き上げながら、彼と一緒に視えたものを優しく言葉にしてあげる。
「うん、兄さん、ベッドサイドの花瓶が、落ちて割れるね」
ふたりで重なって、これだけ軋ませていたら無理もない。
僕が言葉にした直後、本当にベッドサイドの花瓶が落ちて割れた。挿してあった黒バラと、ガラスの破片が暗く湿っている。
案外脆いな、あの花瓶は数ヶ月前に、僕が兄への誕生日プレゼントとして贈ったものだというのに。先日贈った黒バラの花言葉は、「貴方はあくまで私のモノ」だ。あまりにも僕たちの関係に相応しすぎて、兄に贈らずにはいられなかった。今ではあんなにも頼りなく濡れて、その姿が僕の下で善がる兄と重なり僕はぞくぞくと愉悦に震えてしまう。
「あ…っ」
花瓶が気に入っていた兄はそちらへ目をやろうとしたけれど、すぐにそれどころじゃなくなった。
「あ…っあっあ、サキっ…」
激しい突き上げに、僕よりもきれいな顔を歪ませて、啼くことしかできなくなる。僕は思い切り兄の太股へ指を食い込ませて、深奥へと捩じ込む。
「大丈夫、花瓶なら、いくらでもプレゼントしてあげるから」
兄を安心させるように、僕は微笑んで言い聞かせる。伝う汗のせいで、髪が顔に張り付くのが邪魔だ。
兄の――アキのきれいな顔が見えにくくなる。
「あ…っ!」
しなやかに躰を反らせて、兄は自らの腹部へと迸りを放った。
白濁した液体で、とろりと濡れた様も美しくて堪らない。
「……っ!」
僕もすぐに射精をして、兄の中へと放った。一度放ってあげても、兄の中はまだ物欲しそうに僕を締めつけてくる。
「サキ…っ、もっと…っ」
おまけにおねだりまでしてくる兄は、可愛すぎてたちが悪い。僕の中にある汚い感情を、美しく濡れた全身でどこまでも暴いてゆく。
「わかってるよ、アキ……僕のもまだ全然おさまりそうにないんだ」
一度出した自分の精液を、兄の中で少し角度を変えて、僕は攪拌してあげる。
「んっ……あ……」
いやらしい声を上げた兄は気持ちよすぎて泣いてしまうから、その涙を舐めてあげることも忘れない。
兄を突き上げる僕こそが、兄にとっての全てだ。
ばらばらになってしまった花瓶はかわいそうだ。僕たちなら絶対にああはならない。
はじめからもっと危うい関係ではあったけれど。
それでもふたりは深く、深く愛しあっているから、あの花瓶みたいに脆くばらばらになったりはしない。
だがしかし僕は愛しすぎる兄を、ばらばらにしてやりたい衝動を心の中に抱え込み、持て余しつづけている。
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