※※第86話:Make Love(&Melt).33










 「ん………?」

 勉強に励んでいたがいつの間にか眠りに落ちていたナナは、ゆっくりと目を覚ました。
 外は赤みを帯びているため、夕暮れ時なのかもしれない。


 「……………!!」
 そして、ゆっくり開かれたはずのナナの目は、瞬時に見開かれた。




 なぜなら、彼女を抱きしめるようにして、目の前では静かに薔も眠っていたからだ。





 (えええええ!?かわいい――――――――っ!!)

 いーっ、ぃーっ…(※エコー)


 こころで母性的な雄叫びを上げたナナは、真っ赤になって薔の寝顔をまじまじと(うっとりと?)見つめてみた。
 しかも、彼が出掛ける際に羽織っていったジャケットは、今ではナナにそっと掛けられておりました。


 (おおおっ…!かわいい!かわいすぎる!困っちゃってどうしよう!?)
 とにもかくにも寝起きのナナは、大赤面してぶるぶるとふるえておったのですが、

 (…………あれ?)

 ふと、そのことに気づいたのだ。

 (このひと、なんだか、悲しそうな顔、してるよ…?)










 「薔…?」

 そうっと名前を呼んで、

 ふわ…

 やさしく彼のあたまを、ナナは撫で撫でしてみた。
 いや、撫でずにはいられなかった、とでも言うべきか。


 (いい匂いがする…)

 言葉は交わしておらず、片方は眠りの中にいようとも、切なさはひしひしと伝わりきた。
 愛しさと共に。




 泣きそうで、どうかしそうだったが、ナナは懸命に涙を堪えた。
 差し含む姿すら、決して見られてはいけないのだと。






 苦しくて呼吸は難しく、しばらくナナはそのままでいたのだけど、

 「ん………」

 長い睫毛が影をつくるよう、少し潤んだ瞳を開き薔もゆっくりと目を覚ました。




 「ぉ、おはよう…ござい、ます…」
 ドキッと心臓が跳ねてしまったナナは、どぎまぎと夕方に朝のご挨拶。


 「おはよ、」
 薔も笑って返し、

 キュン…

 として絶句する、ナナ。



 このままロマンティックに突入か!?とも思われたのだが、

 「なぁ、」

 笑いながら、薔は確かめた。

 「おまえ、俺の言ったこと、ちゃんと覚えてんだろうな?」









 「はい…?」
 キョトンとしたナナは、記憶を辿ってみた。


 うーん…


 ………あっ!


 そして閃いた。




 「帰ったら一緒に花子ちゃんのお散歩でし」
 「一秒でも寝たらお仕置きだ、つったろ?」


 …ああああああ!



 「わたくし何秒間、寝ておりましたぁ!?」
 「分にしたほうが早ぇよ、」




 “お散歩の前に、どうぞお仕置きをっ、”
 花子は尻尾をフリフリ振って、ご主人さまとその彼女を見守っております。





 このとき、なんだかんだで真っ赤っかのナナさんは、無我夢中で声を張り上げたのでした。

 「でも、薔も一緒に寝てらしたんで、この場合はおあいことやらになるのではないんですかぁ!?」

 ってね。

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