第50話:Love(&Crisis?).38









 『なにかが、音を立てた、

  でも、

  壊れたわけではなかった。』











 「…花子ちゃん?」
 遠吠えをあげた花子を、ナナはキョトンと見つめる。

 薔は静かにキッチンを出て、花子へと歩み寄る。


 長く吠えた後黙り込んだ花子は、食い入るように、カーテンのかかった窓を見つめている。



 ほんのりデジャヴなシーンだが、薔はやはり堂々と且つ静かに、窓へと近づいていった。






 シャッ

 窓に辿り着いた薔が、素早くカーテンを開けると…、



 そこには、ひとりの華奢な少年が立っていたのだ。




 少年に驚いた様子はなく、その風貌からして、薔には思い当たる節があった。

 花子は、威嚇の準備が万端といった様子である。

 (うーん…、見たこともない人だけど、誰なんだろう?)
 そしてナナさんは、絶好調も絶好調、大恋愛する乙女中なのでね、それはもう最愛の彼氏に、その少年がちょっと似てるとかはこれっぽっちも思わなかったんです。




 少年は何かを思案している様子だったが、

 ガラッ――――…

 「入れ。」

 なんと、薔は至って落ち着いて、窓を開けちゃったんですな。


 (えええ!?)
 ナナは、びっくり仰天。




 「………………、」
 少年は黙って、部屋に足を踏み入れた。
 ちゃんと靴は、ベランダに脱いできましたよ?

 花子は、ご主人さまが招き入れた人物なので、厳戒態勢ではあるが呻きはしなかった。




 「…俺が誰なのかも知らないくせに、やすやすと部屋に入れて良かったのか?」
 薔を睨みつけ、ようやく少年は言葉を発したが、声は掠れていて今にも消え入りそうだ。

 「名前なら知ってる、羚亜だろ?」
 まったく薔は動じておらず、声色は静かだがはっきりと返したので、
 「なんで…、知って…、」
 ひどく驚いた様子の羚亜は、言葉に詰まった。



 そのとき、薔は告げた。

 「眼鏡の教師で、思い出せるか?そいつから、お前のことを聞いた。」

 と。




 「――――――――…」
 ふっと、とても懐かしげな瞳をした羚亜は、今にも泣きそうな顔で、笑って呟いた。

 「…そう、要さん、俺のこと覚えててくれたんだ。」




 入ってきたときの羚亜は鋭い表情だったが、今では打って変わって穏やかな、かなしみを纏っており。


 (おお…!なんだかかなしいけど、話がまったく理解できないよぉ!)
 薔と醐留権のお風呂シーンで、その場にいたわけないナナは、じれったさにも泣きそうです。




 「今そいつはな、俺のこいつの親友の彼氏なんだが、それでもお前のことを、気に留めてはいたぞ?」
 薔がこう言ったとき、ナナは誰のことを言っているのかがようやく理解できた。

 「そうなんだ…、」
 小さく呟いた羚亜が、ふと、ナナを見る。




 このとき、ナナと羚亜は視線を交わしたので、大いなる共通点に気が付いたようだ。

 それはまさしく、“ヴァンパイアである”ということ。

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