※第57話:Love(+Sweet!).41
ガチャ―――――――…
上半身ハダカの薔が玄関のドアを開けると、
そこには、羚亜が立っていた。
「うわぁ!なんで薔くん、うえ着てないのさ!?」
「…何しに来た?」
なんだかんだで真っ赤になる羚亜と、落ち着き過ぎている薔。
「俺、とある計画に参加中だから、かくまってもらいに来た。」
「お前、彼女いんだろ?そいつんとこ行けよ。」
呆れた薔が、計画についてを問いただすまえにそう提案すると、
「ダメだって…、そんなことしたら、俺、愛羅さんを襲っちゃいそうで…」
羚亜は、正直に述べてもじもじしだした。
「襲って来いよ。」
「そこをそう返さないでよ!とにかく入れて!」
やけになった羚亜であるが、君が薔の前で“入れて”と言うと別の意味にとらわれがちである。
そんなことないか、もう。
「仕方ねーな、入れ。」
「初めからすんなり入れてよ!」
羚亜くん、憤慨しているのはわかるんだが、“すんなり入れて”は別の意味に……
そんなことないか、もう。
薔に連れられた羚亜がリビングへゆくと、ちゃんと上下に服を着たナナが、ちょこんとソファに腰掛けていた。
「で、」
薔はナナの隣に堂々と座り、その肩を抱くと、彼女の髪を抱いた手で撫でながら言いました。
「お前は今、どんな計画に加わってんだ?」
「ひぎゃあ!」
「俺の目の前で、何してるんだよ!」
真っ赤になる、ナナと羚亜。
「お前のガマンがいかなくなるよう、仕向けてんだよ。」
ナナのあたまに頬を当て、薔は至って冷静である。
「おおお…!近い!近いですよ!おカオ!」
「なに言ってんだ?さっきまでと比べてみろ。」
このやりとりを交わした後、
……かあぁぁあっ!
比べてしまったナナは、瞬く間に真っ赤っかになった。
さっきまで何をしてたんだろ?
羚亜は突っ立ったまんま、はてなマークを浮かべる。
「とっ、とにかく…っ、」
躊躇いながらも羚亜は、明かしたのでした。
「要さん、彼女を連れて、駆け落ちしちゃったから!」
とね。
「あ?」
「えええ!?“かけおち”って、なんのことですか――――――――っ!?」
あーっ、ぁーっ…(※ナナのほうだけエコー)
かけおち【駆落ち・駈落ち】
相愛の男女が逃げてゆくこと。
薔に買ってもらった辞書を眺め、ナナはぶるぶると震えている。
(か、書いてある意味の、意味がわからない…!)
そうです、ナナはちんぷんかんぷんにおいて震えているのです。
「駆け落ち、つっても、行き先はわかんねーのか?」
「うぅん、要さん、ちゃんと俺にだけ泊まるとこ教えてったよ?下剋上温泉だって。」
「すぐそこじゃねーか。」
ソファにふんぞり返る薔と、床のクッションに正座をする羚亜は、向き合って話をしております。
しかしその温泉、何が起こるかわからないような、行きたいようで行きたくないような。
「それより薔くんさ、からだつきキレイすぎて目のやりどころに困るから、お願いだから服着てくれない?」
「そんなん、今はどーでもいいだろ。」
どうやら薔は未だに、上半身ハダカであるらしい。
ナナは“相愛”について辞書を引き、意味を辿っていこうと試みておるのだが、この漢字の読み方がイマイチわからず四苦八苦している。
(うーん…、“あいあい”?あいあいかな?)
そして、あいあい、と引いてみると…、
あいあいがさ【相合い傘】
1本の傘を男女ふたりでさすこと。
と出てきた。
(な、懐かしいぃ―――――――っ!)
めちゃくちゃしみじみする、ナナさん。
「おい、ナナ、意味わかったのか?」
あいも変わらず肩を抱いている彼女へと、薔が問いかけると、
「はい…、とっても、懐かしいです…」
ホロリとしながらも、ナナは微笑んだ。
「…俺とおまえは駆け落ちしたことなん、ねぇぞ?」
………あれ?
怒ってらっしゃる?
「どこのどいつとしたんだ?」
「あの、雨の日に、初めてお家に連れて来ていただいたときに…、」
うまくナナは説明したつもりであるのだろうが、これだと肝心な部分が抜けちゃってるよ?
「俺以外の男と、なにしてんだ?おまえは、」
「違います、違いますってーっ!わたしはあなたと相合い傘ですよーっ!」
結局ナナは、ソファのうえに押し倒された。
「や…っ、あのっ、そんなとこ…、さわっちゃ…っ、ぁんっ、」
「ここだけで、んな可愛い声出せんだな、」
(バカップルって、言うべきか、どうしようか…?)
正座したまんま、存在忘れられてる感が否めない羚亜は、赤面しながらぶるぶると震えておった。
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