すべてに愛はある












 「…――絶対にわたしより、薔のほうが可愛いです!」
 ナナは必死になって、力説した。

 「おまえより可愛い奴なんてどこにもいねぇよ。」
 彼女の力説に、若干険しい雰囲気を纏い薔は返す。


 「いーや!薔のほうが可愛いです!」
 「おまえが一番可愛い。」
 「薔ですってば!」

 どうやらふたりは、どちらがいちばん可愛いのかで言い争いをしている模様だ。


 “微笑ましい喧嘩でございますこと…”
 “花子ちゃん、おさんぽまだ?”
 お散歩に行く予定のわんこたちは、夫婦(ではまだないけど)喧嘩をあたたかく見守る。



 ふと口論の最中、ナナは勢いに任せて携帯電話を手にすると、

 パシャッ

 と不機嫌な薔の姿を撮影し、彼に向けて見せながら声を張り上げたのだった。

 「ほら!可愛いじゃないですか!」











 「ふざけんなよ?」
 「あああっ!」
 携帯電話はすぐさま、奪い取られた。
 薔の雰囲気はさらに険しくなる。

 奪い取られた携帯電話はテーブルの上へと置かれ、

 「なら、思い知らせてやる…」

 不機嫌極まりない彼は強引に、ナナの手を掴んで言った。

 「おまえがどんだけ可愛いのかってことをな?」









 「来い。」
 「あれれ!?お散歩に行くのでは、なかったんですかぁ!?」

 ナナはそのまま、寝室へと連れて行かれました。




 “あらら…”
 “おさんぽいきたーい!”

 わんこたちは辛抱強く、お散歩を待ちわびる。
 おそらく本日は、ナナはお留守番です。

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