ある夜の物語
クリスマス・イブ。
一人の青年が特に狭くもない部屋のなかにいた。
ベンジャミンとか黒熊くんとか他にもっと適したキャラがいたろうに、何で俺……と思っているその青年の名は、夜深 羚亜だった。
彼はあまりぱっとしない会社につとめているわけでもなく、がしかしあまりぱっとしない地位にはちょっと近いところにいた。
そして社交的な性格でなく友人もいないかと言えば、わりとそんなこともなかった。
萌やしっことして通ってはいるが、いつもバカップル全開になれる美少女の恋人がいるためにクリスマス・イブだからと言って恋人がほしいとも思っていなかった。
ぱっとしなくて非社交的でモテないという原作の設定からしてやはりベンジャミンとかにしたほうが良さそうだが、羚亜にしてしまったのでこのままいきます。
F・B・Dの世界は真夏なので雪とかまず降らないが、ロマンチックを醸し出すために夕方にちらほら雪が降ったということにしておく。
羚亜は二十歳なこともあり、ここだけは原作に忠実にいこうと思い洋酒のビンを出し、それをグラスについでちょっと飲んだ。
「メリー・クリスマス」と言ってみたかったが、一人だと空しいし、だいたい自分には愛羅がいるのになぜ恋人もいなくてぱっとしない青年の役をやらなければならないのかとまたしても考えだし、腹立たしくなってきた。
たぶんこの設定を聞いたら愛羅が一番怒ると思う。
腹立たしくなったものの、洋酒でいくらか酔った羚亜はうとうとした。
そして、そのうち、彼はそばに人の気配を感じ、はっとして顔を上げた。
そばにサンタクロースが立っている。
特殊メイクを施し白い髭で誰だかわからなくなっているサンタクロース役は無難なところで、如月にしてみた(夕月は今日本にいないので)。
「変な人がいるーっ!不法侵入!」
「いえいえ、私はどう見てもサンタクロースではありませんか。今日はクリスマス・イブですよ?」
「あっ、そうか、サンタさんかあ。」
不法な侵入者だと思い慌てた羚亜は至って単純な性格なこともあり、サンタさんのあちらこちらを触ったりして確証を得る前にこれはサンタさんなのだと納得した。
ここのくだりがすんなりいった如月サンタは、安堵した。
「どうして俺のところへ来たんですか?」
「ことしはどこを訪れようかと空を漂っていたら、さびしげなものを感じた。そこで、ここへ来たわけです。なにか贈り物を上げます。望みのものを言ってください。」
ちびっこならまだしもいちおう成人男性である羚亜が怪訝に思い尋ねると、如月サンタは原作にめちゃくちゃ忠実な返しをしてきた。
「それ、きっと人違いですよ。空にまで漂うほどさびしいだなんて俺思ってないですし、愛羅さんがいてくれるので贈り物とか特にいらないです。第一、見ず知らずの人に贈り物とかもらったら愛羅さんに怒られます。」
「おやまあ……」
羚亜には愛する恋人がいることもあり、あっさりプレゼントの権利は放棄された。
ノロケ話を聞かされた如月サンタは微笑ましくなると同時に、いかんせん自分も動き出さなければならないと思った。
「えっと……じゃあ、普段けっこうお世話になっているのでこけしさんのところへ行ってあげてください。」
「では、そうしましょう。」
サンタクロースは歩き、壁を通り抜けるごとく消えた。
幽霊みたいだな……と思った羚亜は、自分には愛羅がいてくれるのだというあたたかな気持ちに満たされていた。
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