邪魔な焦がれ人
「は…っ、あ…っあっん」
彼にクンニをされながら、私は嬌声を上げる。ピチャピチャという卑猥な蜜の音が聞こえている。
「ねぇ…っ、隣って……もしかして…っ」
シーツを掴み、私は吐息混じりに問いかけようとした。
誰も住んでいないんじゃないの?、と。
「…――――俺さ、我慢強いほうではあるんだけど」
不意に、口を放した彼は今度はゆびを入れて、ヴァギナへ激しい摩擦を与えると妖しく微笑んだ。
「追い詰められると歯止めが効かなくなるんだよね……」
グリッと中でゆびを回されて、私は呆気なく達してしまう。彼の微笑みは、確実にあの男に似てきた。私が懸命に、面影を探しているから、そう感じるだけかもしれないけれど。似てきたと思いたいだけかもしれないけれど。
抱き方も夜毎、本来の私を暴き出すようになった。私は彼にされるたびに、男のことを思い出す。
歯止めが効かなくなったから、――殺して庭に埋めたの?
喉まで出かかった言葉をごくりと飲み込む、彼はゆびを深く入れて愛液を掻き出す。
グチャグチャッ…ジュクッ…
「あっあああ…っあっっ、あ…っあっ」
脚がぐっしょりに濡れて、恥ずかしいことに悦びを感じる。私の躰の大いなる変化はいずれ、隠すことができなくなる。
彼は、気づいているだろうか?
私が妊娠しているということに。
彼は毎回きちんと避妊をつづけている、真実は容赦なく白日の下にさらされる。
彼は欲しがっていた日常を手に入れた、男は欲しがってもいなかった私の心を持ち去ってしまった。私が愛しているのはもう、躰を愛撫してくれているこのひとではない。
それぞれが、せっかく手にしたものを生かしきれない境地に、立たされている。
私はそのうち確実に、彼を追い詰めることになる。追い詰められると歯止めが効かなくなる彼は、何をしでかすかわからない。
今は可愛がってくれても、あの手紙のように残酷に、私を捨ててしまうだろう。もっと早く、その真の姿を見せてくれていたら、私の想いは埋められずに済んだ。荒々しくなじってくれさえすれば、彼を好きなままでいられた。
でももう遅い、心なら男が全部持っていってしまったから。
私は近いうちに、ほんとうに愛するひととの再会ができるかもしれない。虜にさせる冷たさと美しさを、息も忘れた世界で永久に堪能できるかもしない。嫌悪されることはわかっている、でも、あの傷をまずは癒してあげたい。
だとすれば、何も怖がる必要なんかなくて、一人で庭にいるかわいそうな彼のことを想いながら、目の前の非道な男に意識をいったん預けていった。
Fin.
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