淫らに縛られて


 抱かれながら、大好きな人の名を呼んだ。
 名前を唱えるほどに、あたしは孤独になる。ふたりでいるときの孤独ほど、恐ろしいものはない。

 「んぁあっ…………」
 激しく抱きしめられ、あたしは呻いた。彼の胸に乳房が当たり、微かに感じている。
 まどろむ部屋は薄暗く、顔がよく見えない。
 ベッドサイドのランプに伸ばした手を、彼が引き戻した。
 「ダメ」
 指にキスをする。
 「まだ、このまま………」
 しなやかな手が、あたしの頬を包み込む。少しの間見つめ合い、唇を重ねた。
 「ん……………」
 息を漏らし舌を絡ませる、激しいディープ・キス――――――。
 「ほら………、もっと舌伸ばして」
 彼が口元で言う。
 あたしは貪るように、舌を伸ばし絡ませた。
 「そう…………」
 胸をゆっくりと揉まれ、あたしは感じた。次第に彼は、あたしの胸の谷間へと顔をうずめる。
 「っあぁ…………!」
 胸の突起を舐められ、全身がしなる。硬くなったソコは、熱を帯びて赤くなった。彼は舐めながら、あたしの胸を揉みしだいてゆく。
 「んっ……ん………」
 あたしは喘ぎながら、淫猥な行為にふける。
 彼はやがて射精し、あたしは共に達した。酷く乱れた声を、高く上げながら。

 彼はいつの間にか、赤い糸を手にしていた。
 不思議に思い眺めていると、それであたしの乳首の根元を縛ったのだ。
 「……っ………?」
 食い込むように糸が当たり、痛みに顔が歪む。
 「どこにも、行かせない…………」
 彼は囁くと、反対側の糸を自分の性器に結びつけた。
 「つぅっ…………!」
 そして、痛みに耐えている。
 どうしてこんなコトをするのか分からず、あたしは痛みに悶えた。
 「ねぇっ………!痛いっ…………」
 はぁはぁと、息を荒げて言う。
 すると少しだけ笑って、彼は答えた。
 「この痛みを、忘れないで…………」
 腹部の上にまたがり、胸を愛撫する。乳首に縛り付けた糸を引っ張ったので、あたしは千切れるかと思った。
 「どこにも、いかないよぉ………!痛いっ…………」
 泣きながら首を振る。
 彼はゆっくりと糸を解くと、絞り出すように言った。
 「ごめん…………」

 背中を向けた彼の肩にキスをして、あたしは言う。
 「大丈夫………、あたしはここにいるから」
 彼はあたしの頭を撫でて、嬉しそうに言った。
 「ありがとう」
 愛しくて仕方なくて、背中にしがみつく。
 「大好き………」
 そしてまた、カラダを重ねていった。


 セックスの後は、淋しい。あの痛みが嘘のようで。
 今度あたしたちは、小指を赤い糸で結び付けた。どこにも行けないように、ココロとカラダが離れぬように。
 抱き合い眠る温もりは、孤独を癒やしてくれるだろうか?
 あの痛みを忘れないためなら、カラダのどこを縛られてもいい――――。
 そう思うあたしの小指は、糸が食い込み鬱血する。それすら愛おしい。
 目が覚めたらもう一度、抱き合える。そう信じて、眠りに身を委ねていった。
 




  See you………

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