飼い慣らされて、あなたに


 街で、犬のような少年を拾った。

 「名前は?」
 と聞くと、
 「わからない」
 と言うので、わたしが昔飼っていた犬の名前を取って、ウィズと名付けた。ウィズと呼ぶと少年は、少しはにかんだ。高校生くらいだろうか?少し長めの栗色の髪に、同じく栗色の瞳をした、やけに痩せた少年だった。聞くともうかれこれ3日間、水以外の何も口にしていないらしい。
 哀れに思ったわたしは、少年を連れて帰った。少年は大人しく、わたしのあとをついてきた。

 家につくと、まずお風呂に入るように命じた。少年は黙って、わたしに従う。
 少年がお風呂に入っている間に、わたしは食事の準備をした。寒い夜だったので、シチューやハンバーグなど、なるべく暖かい料理を選んで調理した。
 「あの……」
 気付くと、少年はお風呂からあがり、バスタオルを体に巻きつけキッチンの入り口に立っていた。細い体から湯気が漂う。
 「服は?」
 少年が問いかけたので、わたしは女物だったが服と下着を一式貸してあげた。身長は何とかなったのだか、細いため女物でもブカブカになった。
 「ありがとう」
 お風呂上がりのせいか、ほんのり頬を赤く染めた少年が、囁くように礼を言った。
 「さぁ、食べて」
 わたしはテーブルに少年を向かわせると、優しく言った。こくんと少年が頷く。

 それから少年は、驚くほどの食欲で料理を平らげた。この細い体のどこに、入る余地があるのだろう?というくらいに。
 たくさん作られた料理たちは、たちまち少年の体に吸収されてしまった。わたしは唖然として、その光景を眺めていた。
 「お腹いっぱい」
 フゥと溜め息をつくと、少年は椅子にもたれた。お腹を押さえているが、先ほどと体型は全く変わらなかった。

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