※第13話:Game(in Sofa).11






 夢のなか、手を伸ばしてみても、触れるものはなにもなかった。

 ただ冷たい空気が、現実味のない世界に淡々と流れてゆく。




 ナナは深い眠りのなかで、懐かしい、いにしえの街を彷徨い歩いていた。
 もう二度と、現代の姿においても、足を踏み入れることはないであろう街を。



 ときは真夜中。
 夜空に浮かぶあかい満月を、ぼんやりとした雲が覆い隠してゆく。
 ネオンなどなく、闇が静かにあかりを連れ去って。


 漆黒のマントに身をつつみ、ナナはただ、夜の街を徘徊していた。




 たしかに、死に物狂いで、“だれか”を探していた。

 しかしそのひとが、この街にはいない事実を、痛いほどに知っていた。




 絶望感が、襲いくる。

 吐き気すら覚え、ふと足を踏み入れた路地裏に、




 無数の死体があった―――――――…




 ナナは立ち尽くす。
 すぐにでも走り去りたくて仕方がないのに、動くことがまったくできない。

 ほおを、汗がつたった。


 そのとき、聞こえてきた。

 無数の声が。




『オマエが殺したんだ………………』

『あなたに殺されたのよ………………?』

『ひどいよ、』

『どうしてくれるの?』

『責任とってよ…………』

『罪は償えないよ?』

『でもどうせなら、死んで償ってよ………………』





『しあわせになんか、なれないんだよ?』





 死ねシネしね死ね死ね…………………




 まるで蝉の鳴き声のように、それは降り注いだ。





「ご、ごめんなさい…………………」

 ナナはその場に、へたり込む。

「ごめん……なさい…………………」

 ボロボロと、なみだがあふれ出した。



 クスクスクス………………



 次第に声たちは、笑い出した。




『オマエなんか、死ねばいいんだ。』




 ナナはこらえきれず、うずくまった。
 息苦しくて、あたまが痛くて今にも割れてしまいそうで。


 しかし、


 サァ――――――…


 なぜか雲は流され、白く透き通るような満月が顔を出していったのだ。




 ギュ―――――――…

 そしてナナは、だれかに、肩を抱かれた。


 かなしいくらいに愛しくて、こころから頼れる腕だった。






 だれなのか、確かめるまえに、ナナは泣きながら目を覚ました。

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