私は今、新しい領主の前にいる。今日が彼とは初対面になる。まだ17歳で私の二つ年下だそうだ。そんな彼が迷宮を達成したんだから驚きだ。彼と二人きりの部屋の中、無言で見詰め合う。窓から入ってきた風が私の髪と彼の金髪を揺らした。
『…初めまして、アリスです。この度領主様の婚約者候補として名が挙がりましたのでご挨拶を、と思いまして』
「え、アリス?」
『そうですけど?』
「あいつが最期に云ってた…」
『あいつ、って誰ですか?』
私の頭に過ぎるのは唯一人。案の定彼の口からはジャミルの名前が出た。そして彼はゆっくりとジャミルの最期について語りだした。目を瞑ればその情景が浮かんできそうだった。
「愛してる、って。結婚しよう、って云って―――、」
『やめて下さい!…私は、貴方からその言葉を聞きたいんじゃないんです。ジャミル本人の口から直接その言葉を聞きたいんです。だから、その言葉を貴方に云われてしまったら意味がないんです』
「…ごめん」
『…私こそすみません』
気まずくなって視線を逸らす。少しの沈黙が部屋を包んだ。
「俺、捜したい友達がいるんだ。一緒に迷宮をクリアした奴何だけど、違うところに飛ばされた。俺はそいつにどうしても逢いたい。だから此処の領主にはなれないし婚約も出来ない」
彼の言葉に驚いた。地位も何もかもを捨てて彼はその友人を捜しに行く、というのか。
「迷宮で手に入れた金は奴隷だった奴等の為に使う。この国の皆には悪いと思ってる。けど、俺はアラジンを捜したい!」
彼の熱意に私は何も云えない。何か云ったとしても彼の気持ちは変えられないから。
「アリスは、これからどうするんだ?ジャミルがいなくなっちまって。この国から出るのか?」
『私は―――…この国に残ります。ジャミルが帰って来るのを此処で待ちます』
それで一番最初におかえりなさい、を云うんだ。
「そっか。…アリスはさ、そうやって笑ってた方がいいよ」
『いきなり何ですか』
「はは。…じゃあ、俺行く。元気でな」
『はい。領主様もお元気で』
「敬語じゃなくていいって!俺もう領主じゃねえし!俺等もう友達、だろ?」
『う、うん』
彼はにっこり笑って背を向けて行ってしまった。此処がこれからどうなるか何てわからない。だけど私は彼の守って来たこの国を守る。…唯それだけ。
そしてジャミルが無事に帰って来たときには、ちゃんと答えが出ているのだろうか。


愛してる、アリス


私は愛してはいなかったけど、
ジャミルのこと、好きだったよ。

永遠など知りたくない、僕は君が居ればそれで好い
(大好きで大嫌いで、でもやっぱり嫌いにはなれなくて。―――…大好き)

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