第三者視点

崩れ落ちていく小さな石はジャミルとゴルタスの身体に容赦なくぶつかる。ゴルタスに抱えられたジャミルは、もうすでに一人で動く気力もないのだろう。ぽつりぽつりと幻覚でも見ているかのように言葉を溢す。
「…あれ、モルジアナは?」
きょろきょろと奴隷の彼女を捜すその姿に、モルジアナの胸は少しだけ痛んだ。
「アリスは?アリス、アリス。ああ、僕は此処にいるよ。そうだ、アリスに伝えたいことがあったんだ。うん、ずっと云いたかったんだけど云えなかったんだ。―――…僕はアリスのことを愛してるよ。子供の頃からずっと。今までも、これから先もだ」
だから僕と結婚してくれ、その言葉はモルジアナの耳にも、アラジンの耳にも、アリババの耳にも、勿論一番近くにいたゴルタスの耳にもはっきりと聞こえた。アリスのことを知っているモルジアナとゴルタスは顔を歪めた。心がきりきりと痛んだ。
「幸せに…する、から」
迷宮が完全に崩れ落ち、モルジアナ達が脱出し、ジャミル達の上に岩が落ちる中、最期の言葉は誰かの耳に届いたのだろうか。彼女の耳には、届いたのだろうか。

神がこの恋を攫って行った
(何て神様は残酷なのだろうか)

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