「迷宮へ行って来る」
その言葉に私は彼の顔を凝視した。
『…どうして。だってジャミルは地位も金もあるじゃない、』
「あそこにマギがいるかもしれないんだ。彼に会うことが出来れば僕は王になれる…!だから僕は迷宮へ行くよ」
『危ないよ』
「大丈夫だよ。奴隷は沢山連れて行く。奴隷だったら幾ら傷付けたって構わないだろう?」
『でも、』
「…アリスは僕が達成出来ないとでも?」
唯、私はジェミルに行って欲しくないだけ。だって迷宮へチャレンジしに行って達成した人は今まで誰一人としていないのだから。帰って来るという保障は何処にもないんだ。
『そんなこと、ないけど』
「大丈夫。僕はちゃんと帰って来るよ。その暁にはアリスに話したいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」
何を云おうとしているのか、私には既にわかっていた。だけどそれに気付かないふりをして首を縦に振る。その返事を、私は返すことが出来るか今はまだわからないけれど。
彼が行くと決めたんだったら、私はそれを見守ろう。唯々彼が帰って来るのを待っていよう。そう、決めたんだ。
『―――…いってらっしゃい』



彼の悲報を伝えられたのは、それから二日後のことだった。

貴方を受け止め損なった世界なら割れてしまえばいい
(嘘吐き、そう天に向かって呟いた)

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