今、私の目の前には征十郎がいた。場所は私の部屋。いきなり乗り込んで来たかと思ったら無言で私の前に立った。いつもの雰囲気とは違い、かなり恐い。機嫌が悪いときでも彼はこんな雰囲気は出さなかった。可笑しい、何かが。
「…今日、」
ゆっくりと話し出した征十郎。冷たい視線が私に向く。彼の赤い瞳と目を合わせることが出来ない。
「何処へ行っていた?」
想像以上に冷たい声に身体が震えた。ばれている。私がバスケの試合を見に行ったことに気付いている。
『ごめ、』
私が謝ろうとした瞬間、頬に鋭い衝撃と渇いた音が響いた。ああ、叩かれたんだなと頭で理解する。征十郎に叩かれたのは初めてだ。叩かれた衝動で少しよろめいた。
「俺は何処へ行っていた、と聞いたんだ」
『ごめん、なさ…っ』
「謝っていたらわからないだろ?」
『バスケの試合、見に行ってた』
「俺は常々バスケ部には来るなって云っていたよな?」
掴まれた手首が痛い。凄い力で掴まれて顔が歪む。
「どうして…、どうして俺の云うことが聞けない?」
『ごめ…』
私の涙が一粒彼の手に落ちる。それにはっとしたように征十郎は私の手首から手を離した。
「癒月、」
彼の手が叩かれた頬をなぞる。私がその行動に身体を震わせると、彼は少し眉を潜めて私の身体を抱き締めた。
『せ、じゅろ』
「痛かっただろ?―――…ごめん、」
彼の肩に顔を埋めてもう一度ごめん、と呟いた。

爆ぜる狂気
(彼に叩かれた頬がジンジンと痛む。それ以上にズクンズクンと疼く胸が痛かった)


title//花畑心中

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