きゃあ、黄瀬くん!、なんて声を結構冷めた目で見詰めながら後ろの壁に寄り掛かった。こんなに後ろだったらきっと征十郎にも黄瀬くんにも見付からないだろう。それに私にはバスケ部のファンに混じって最前列で応援する気力はない。一緒に来ていた友達は最前列の方に行ってしまったけれど。これだったら私は必要なかったんじゃないかと今更ながら思う。今更思ってもどうしようもないのだが。
「黄瀬くん格好いい!」
どうやら黄瀬くんがシュートを決めたようで、周りの女の子が活気付いた。私はバスケなんて体育の授業でやったことがあるくらいで、ルールなんてわからない。四歩歩いたら反則、ってくらいか。だから誰かが凄いプレーをしたとしても、わあ凄いとしか思えない。端の方で選手に指示を出している征十郎を見る。征十郎は今日は出てないのか。あ、黄瀬くんがこっちを向いてガッツポーズをした。そのとき、彼の表情が固まった。真っ直ぐに私の方を見て。こんな人混みの中で、わかるわけないのに。
「―――…癒月っち、」
彼の口が動く。多分、私の名前を呼んだ。いつもの独特な呼び方で。

清廉と堕ちる
(私だとわかるわけない、のに)


title//花畑心中

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