*大学生設定

*お酒は20歳になってから!




真夜中、なんとなく眠れなくて一人ベッドで携帯をいじって友達の日記やらなにやらを読んでいたりした。それでもちっとも眠れなかった。段々と近づく朝と遠ざかる昨日に焦りを感じて、早く寝なくちゃと思えば思うほど眠れなかった。眠れない。
無理矢理に閉じてみた瞼に浮かぶのは群青色のふわりとした笑顔で、そういえばもうあの人に1週間も会っていないなぁなんて寂しくてどうしようもない思いが込み上げてきた。思い出してしまえば余計に眠れる気配はなくなってしまって、虚しさが胸に横たわった。諦めて目を開いて、ホットミルクでも飲もうと決めた。すると、手の中にあった携帯の画面が急に切り替わって電話の着信を示す画面になった。音を立てて細かく振動する。そこには、幸村 精市の4文字。わたしは跳ねるようにして通話ボタンを押した。


「も、もしもし」

「ああ、名前、起きてた」

「幸村くん」

「出るの早いよ。まだワンコール」

「ちょうど携帯をいじってて」



そしてちょうどあなたのことを考えてて、なんて可愛らしいことは言えやしないけれど。
久しぶりの彼の声に気持ちは解れて高まった。携帯越しの吐息はすごい心地よいから好きだ。近くにいないけれど、近くに感じることができた。幸村くんの息は心なしか、いつもよりも熱っぽかった。大学の研修会で今は遠くにいる彼と、隣合ってるような気がして、少し不思議だ。



「ね、幸村くん」

「なあに」

「飲んでたの」

「わかる?ちょっとね」

「やっぱり」

「飲み会でさぁ」

「飲み会ですか」

「もうむさ苦しい男ばかりで盛り上ってたらね」

「うん」

「なんか無性にお前の声が聞きたくなっちゃったから」

「…」

「抜けてきちゃったよ」

「幸村くん酔ってる」

「酔ってない」

「嘘よ、だってそんなこと言うんだもん」

「俺はいつでも素直さ」



幸村くんの身体をきっと沢山のアルコールが満たしているんだろうな。受話器越しにそれは伝わった。酔った幸村くんはいつもの凛とした声とかしっかりとした物言いがなくなって、舌っ足らずの甘えた声になって、それはそれはわたしの身体に響くのだ。ふふ、幸村くんの笑った声が耳元をくすぐる。耳元に息がかかったようでドキドキする。久しぶりの幸村くんの声だ。お互いに、こまめに連絡をとるタイプではないから余計にだ。
最も、普段は半同棲みたいな生活をしているから、連絡をする必要がないだけなのだけど。



「ねえ、名前はさぁ」

「はい」

「俺が今なに考えてるかわかる?」

「全然、」

「すごく簡単なことだけどさ」

「うん」

「名前に触りたいとかキスしたいとか一緒に寝たいとかそんなんばっかだよ」

「あ、」

「なに」

「私とおんなじこと考えてる」

「一緒に寝るって別にお手々繋いで並んで眠るんじゃないよ」

「もちろん」

「お前からそんな風なこと言うなんてね」

「私も幸村くんに触りたいんだよ」

「お前も酔ってるんじゃないよね」

「酔ってないです」


幸村くんは笑った。上機嫌なトーンに私も綻んだ。ベッドにあおむけに寝転んでつま先を天井に向けた。宙に浮いた日に焼けていない、寒さで白くなったつま先がブラブラと揺れた。


「いやらしいことしたいね」

「したいね」

「とびきりいやらしいことね」

「期待してますね」

「甘く考えないでよ。次の日足腰立たなくしてやるから」

「期待してます」

「待っててね」

「待ってるよ」

「あと少しだから、寂しいがらないでよ」


電話越しの時間が止まってしまったかの様に言葉が途切れた。幸村くんの見えない姿が思い浮かばれて、すぐそばに幸村くんがいないことを思い知らされた。声は近くにあるけど、彼はここにいないのだ。


「…寂しいよ」

「うん」

「もう、むり。寂しくて寂しくて、死んじゃいそうだよ幸村くん」

「あーもう、」

「うん」

「なんでさぁ、君はさぁ、そういうこというかな」

「だって、幸村くんに会いたい、触りたい、」

「もう、本当」



好き。

受話器越しに聞こえたと思ったら、次の瞬間にはぷつりと途絶えて無機質な機械音がした。つー、つー、つー。電話が切れたことをそれは示した。言い逃げですか、幸村くん。きっと幸村くんは酔っていたとしても好きとかいったことがすごく照れ臭くて恥ずかしくて、今顔が赤いんじゃないだろうか。簡単に想像できて私は一人で笑った。



携帯を閉じて枕元に放った。さっきまで傍にあった声も吐息もどこかへ消えてしまった。目を閉じて、酔った幸村くんのことを思った。酔った幸村くんと交わったことを思い出した。いつもよりも幸村くんはペースが早くて舌は熱くて、キスするととけてしまいそうになった。口のなかは私が普段飲まないようなアルコールの味がした。
幸村くんの髪からは、やっぱりアルコールの匂いと、あとは周りの人が吸ったのか普段はしない煙草の匂いがした。首筋もいつもよりも熱くて、指先はせっかちで、私はうっすらと汗ばんだ背中に手を回すのだ。いつもよりも饒舌な幸村くんの呻いた声とか愛の言葉とか。そんなことを妙にリアルに思い出した。
思い出してから少し、後悔した。


そうだ、きっと冷蔵庫には幸村くんと買ったお酒があったはずだ。それをのめば、きっと眠れるだろう。


思い出す夜
(幸村くん、早く帰ってきてよ)

20090521
20101129 加筆、修正
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