確証はない、けど、試してみる価値はあると思う。相変わらずの沢山のキスの合間。べろ同士はくっついたまま唇だけ離れた瞬間に、私は柳くん、と呼んでみた。柳くんも、唇だけ離して「なんだ」と答えてくれた。その時にもう一度、そっと両方の猫耳に手を伸ばして触ってみた。すると、やはり言葉の終わりと共に柳くんははぁっと息を漏らして私の肩を押し退けた。


「…やなぎくん、耳」

「…なんだ」

「気持ちいいの?」


何も答えなかった。沈黙は肯定だ、私はそう判断した。あの猫耳は敏感なんだ。
すると、私の中に芽生えた気持ちはなんだろう。ちょっと、悪戯してみたくなってしまった。柳くんの膝の上に座っている私が、柳くんの肩を不意に押してみたら力が入ってなかったのか簡単にソファの背もたれに彼の身体は沈んだ。少し驚いてる柳くんを余所に、膝立ちになって柳くんの頭を胸のあたりで抱きしめた。人の頭を抱えるのって気持ちがいい。妙に気持ちが落ち着く。

だが、今私は落ち着いている場合ではなくて、柳くんの頭を抱えたまま猫耳の付け根をそっとくすぐってみた。改めてみたら、本当に柳くんの頭の髪の毛を掻き分けてきちんと耳が生えている、凄い。柳くんが私の意図を感じたのか、珍しく慌てている様子だ。これはますます、何かしてやろうという良からぬ気持ちがむくむくと育った。
調度目の前にある、ぴょこんとした猫耳を唇で挟んではむはむとはんでみた。すると、腕の中の柳くんが大きく震えた。もう片方の耳も、指で薄い皮膚を擦るようにしてみたら、胸にぎゅうと顔を埋めた柳くんから、くぐもった声が漏れた。でも、抵抗はしない、されるがままだ。
ああ、かわいい、なんて、かわいいんだろう。子猫にしがみつかれた時のような反則的な可愛さだった。あの、柳くんが!普段はなかなかこんな色っぽい声は出さないんだ。聞いているだけで私もドキドキしてくる。きっと、柳くんにはまる聞こえじゃないだろうか。

弁解させていただくと私も普段こういうことは一切しない。恥ずかしいし、どうしていいかわからない。けれども、今日は猫耳の所為だろうか。いつもは為されるがまま、悔しいからその仕返しという気持ちもあるのかもしれない。いじめっこのような柳くんが、こんな簡単にも抵抗できないくらいフニャフニャになってしまうことに少しの優越感を抱く。
途切れ途切れの息の中、柳くんが私の名前を呼んだ。私も自然と息が弾んでて、そのままの息で猫耳の近くで柳くん、と返事を返したらそれだけで柳くんは次の言葉を紡ぎ出せない。柳くんじゃないけど、計算通りだ。もしかしたら柳くんは、いつもこんな気持ちで私に意地悪をするのかもしれなかった。自分のしたことで、相手が気持ちよさそうにするのって、何故か自分まで気持ちよくなってしまうのだ。

あと、そんな気持ちとともに、それよりももっと単純な気持ちが根本にある。素直に私にされるがままに、気持ちよさそうにしてくれる柳くんが可愛いのだ。滅多に聞けない声だとか、私が先にいっぱいいっぱいになって見ることのない余裕のなさそうな表情とか。どれもが可愛い。
綺麗な美人さんの柳くんを、可愛いと思ったのは初めてだ。長い付き合いではあるが、初めてのこの気持ちはなんだろうか。柳くんを、ぎゅっとしたい。


夢中になって、柳くんの耳をいじっていたらいきなり膝立ちの私の内股を、何者かの手の平が滑った。勿論柳くんしかいないのだけれど。思ったよりも熱中しすぎていたせいか、不意打ちのそれに大袈裟なくらい腰が跳ねて砕けた。
それを受け止めた柳くんは流石王者立海テニス部レギュラーというような素早い動きで私をソファと柳くんの間に倒した。
もとから薄くらい部室、さらに夕日で影の強く浮き出された柳くんの表情は、なんだろう、…怒ってる?


「や、やなぎくん…」

「…全く、お前というやつは」


ここで、私は急に今までの自分の行動を猛烈に反省した。そうだ、私、何をしていたんだ恥ずかしい…!彼からキスしてきたとは言え、猫はしかという病気にかかってしまった柳くんの耳を、無理矢理いじり倒すだなんて…!!
柳くんが怒るのも無理はない。猫耳の所為で怒っている怖さは全く感じられないが、怒っているに違いない。柳くんの口からは、やれやれと言った大きな溜め息が漏れた。な、泣きたいです、私。


「ご、ごめんなさい柳くん」

「全くだ、」

「怒ってるよね、ごめんなさい」

「ここは学校だからだとか部室だからだとか、拒否すると思いきや、こんなことをするとはな」

「え、」

「俺のデータを相変わらず裏切ってくれるな」


そう言った柳くんはどこか楽しそうに笑った。笑ったのもつかの間、どこかで許してくれんじゃないだろうかという甘い考えが浮かんだのを敏感に察した柳くんは、私を制すように手首を抑え付けた。


「言っておくが、謝ろうがなにしようが手加減はしてやれない」


だってこんな風にしたのはお前だろう?見慣れる部室の天井を眺めて、柳くんの頭が私の首に埋まったのを見届けた。








形勢逆転だ。あっという間に私は乱されてもう前後不覚の状態だ。つまりはいつもの力関係に戻ってしまったわけだけれども。
わざとなのかなんなのか、乱されただけで最後まで脱がされないワイシャツはボタンが下だけ留まっていて、さらにそれを上まで捲られていた。ソファの上で四つん這いになってる私の背中から柳くんが被さってる。スカートはそのまま、下着だけが左の足首に引っ掛かっていた。

背中を撫でられる。なんでなんだろうか、背中なんてなんてことない場所が、柳くんに触られるだけで気持ちよくて堪らない。ぞくぞくして身体が震えた。足の付け根には既に柳くんのしなやかな指が埋まってる。くちゅくちゅ音がして掻き回されてる。柳くんにしては随分と性急な動きだ。
だっていつもは焦らして焦らして面白がってる節があるのに、今日は言葉数も少なくて、どんどん進んでく。どんどんおかしくされていた。

下からも水が沢山溢れて太ももを伝うのを感じて、目からもポタポタと涙が溢れてソファに跳ねた。人間の身体のおよそ60%は水分だというのにこんなに私は水を出してしまって大丈夫なんだろうか。それとも、柳くんの手によってドロドロに溶けてしまっている私自身の一部がこの水なんだろうか。ああ、そうしたら私は柳くんに溶かされてなくなっちゃうじゃないだろうか。
指が、私の中を広げてほぐしたらするりと抜かれて、急な空洞が私を物悲しくさせた。


「…はぁ、や、」

「ふふ、心配せずともすぐにやるさ」


私の不安もなにもお見通しと言わんばかり声が聞こえて、すぐに入口に熱いものが宛がわれた。触れただけなのに私は腕の力が入らずに上半身が崩れてしまった。


「良かったな、お前は」

「、や、やなぎくん?」

「雄の猫のものというのは刺々していて、雌猫は酷い苦痛を伴うらしい」


柳くんは日本語を話していて、ちゃんと聞こえているのに何にも理解できない。私はいっぱいいっぱいで、ちゃんと考えられなかった。いや、きっと正常な状態だったとしても次の瞬間を迎えるまではなんの話かは分からなかったかもしれないけれど。


「お前は気持ちが良いだけだろう?」


腰を掴まれて、一気になかを押し広げられた。熱くて熱くて目の前が白くチカチカした。柳くんのが、私のなかに入った。
口から堪えきれなかった声が漏れて恥ずかしかったけど、気にする暇もなく柳くんが動き出した。気持ちがいいだけじゃない、正直。勿論、気持ちはいいけど、気持ちが良すぎるのか苦しくなる。
背中にぴったりと柳くんがくっついて、ぐらぐら揺さぶられた。


「…っ、はぁ、ん」

「、っ、ここだろう?」


お腹側と奥の方を深く刺激されて、返事も出来ない。お尻だけは柳くんに支えられてて非常にみっともない格好だった。服だって半端に脱がされてて、対して柳くんは一切乱れてない。でも、いつもよりも柳くんのペースは速いし、耳にかかる息は熱い。
自分の身体なのだけれども私よりも柳くんの方が詳しいってどういう訳なんだろう。自分では触れたことのない身体のなか全てを柳くんには把握されてしまっているようで。所謂『弱い』と言われている部分ばかりを柳くんがぐりぐりと押してくるのでひっきりなしに声が出てしまう。伏せた顔を腕に埋めても声は掻き消せなかった。


「隠すこと、は、ないさ」

「でも、ん、っひゃ、」

「このデータは間違えることはないからな、」


絶対に。
逆らえないような響き。柳くんの手が内ももに回って、そのまま付け根の気持ちいい部分をねぶった。途端に、自分でもわかるくらいになかがぎゅうと縮こまって下から何か迫り上げてくるような、そんな感覚が私を襲った。


「や、…れんじ、くん、もう、」

「はぁ、っ、分かっている」

「れんじくんれんじくん」


柳くんのもなかで大きくなって、一際深いところを柳くんのがえぐるように突かれて、私はびくびく震えて、なかの柳くんのも大きく痙攣した。最後の瞬間に柳くんが私を振り向かせてキスをして、声まで柳くんに食べられてしまった。



ふうと息をついて、柳くんのが引き抜かれた。ソファの上で寝返りを打って、天井と向かい合うと、久しぶりに柳くんの姿が見えた。やはり猫耳姿。


「ふふふ、柳くん」

「なんだ、随分とご機嫌だな」

「なんでもー」


そう言った柳くんもどこか楽しそうで、おでこに何回かキスをされたあと、柳くんの身体が私にのしかかってきた。ソファと柳くんにサンドイッチされた具材のような状態だ。

立海テニス部のソファは大きくてふかふかだが、それでも柳くんはおさまりきらないで、足が宙ぶらりんになっている。


「…柳くんの猫耳、一日でお別れだと思うと寂しいな」

「何故だ」

「だって、可愛いのに、似合ってる」

「おかしな事を言うな」


柳くんに咎められるように頭を数回撫でられた後に、帰る身支度を始めてしまった。確かに、学校だし部室だし、外はいつの間にかとっぷりと暗くなってしまっているので柳くんの猫耳を隠すには十分な時間なのだけれど、少し寂しかった。
終わったあとにくっついてるのが好きなのに。猫耳の彼となったら、尚更。

だけど、私の無言の抵抗も手早く柳くんに服とか髪の毛とかなにもかもを整えられてしまって、それでもソファに座っていたら、柳くんに手を差し出されてしまった。
ほら、なんて促されたら、行かない訳にはいかない。駆け寄って、手を繋いだら柳くんに頭を撫でられた。


「寂しいなぁ、猫耳柳くんとお別れか」

「何を言ってる。それならうちに来ればいいだろう」

「え、本当?」

「ああ、そうしたら、さっきよりも目一杯可愛がってやるさ」


お前も、思う存分猫耳を触るといい。なんて照れもせずに言うものだから、私の顔に熱が集中したのは言うまでもない。







計画的犯行
(反省もしていないし、後悔もしていない)





「そういえば、大丈夫なんすかね、柳先輩の彼女」

「何がだよぃ」

「だって、俺らに移しちゃマズイからって早く帰したのはわかるんスけど、彼女さんに全部任しちゃったら彼女さんに移る可能性が…」

「まだ甘いの、お前さんは」

「え、なんでですか」

「赤也、苗字さんを部室に呼んでふたりきりにしろって言ったのは、俺じゃなくて蓮二なんだよ」

「え、どういうことッスか?」

「つまりはね、蓮二は、あの病気をあえて彼女に移すつもりなんだよね」

「え、なんでですか!彼女に病気をわざと移すって…」

「ばっかだなー、お前。リアル猫耳が生えんだぞ?しかも敏感とかいうオプション付きの」

「…え、つまりは、彼女さんに猫耳をって、いう?」

「そうそう、相変わらず怖いねぇ、ウチの参謀は」

「…、悪魔だ」

20100922
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